【上海=但田洋平】新型コロナウイルスの封じ込めにいち早く成功したと自信を示す中国。上海市内を歩けば、街は平穏と活気を取り戻したことに気づく。国有企業を中心に、製造業の稼働率も春節(旧正月)前の水準まで近づきつつある。他方、武漢市の封鎖解除も機に感染「第2波」が懸念され、現地の警戒心はいぜん解かれていない。中国は復活したのか。ここからどのような成長曲線を描くのか。中国の今を追う。

 

 「8割くらいだね。地方からの客はまだ少ないけど、地元の人が買ってくれているよ」。4月上旬の土曜日。人民広場から黄浦江沿いの外灘まで続く上海一の目抜き通り、南京東路は以前と変わらぬ賑わいをみせていた。路面店で肉まんを販売する店主は、空になった蒸籠の山を指さして白い歯をこぼす。3月中旬以降、売り上げは春節前の8割まで戻ってきた。この日も、用意した300個を売り切った。

 街を見渡せば、ほぼすべての人がマスクを着用していることを除き、以前と変わらぬ日常が流れているように映る。通勤時に混み合う地下鉄、幹線道路の渋滞もなじみの光景だ。政府発表によれば、3月半ば以降、上海における国内由来の新型コロナの新規患者数はほぼゼロの状態が続く。

 企業活動の回復も顕著だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)が4月上旬に実施した上海を含む華東地区の日系企業アンケート(710社が回答)では、6割超の企業が「事業をほぼ100%再開」しており、「7~8割再開」を含めても80%超に上る。2月中旬は過半が「半分程度」か「それ以下」の状況だったのと比べて様変わりだ。

 また、稼働率の上昇・低下要因についても、以前は「従業員不足」や「供給網の分断」が大きかったが、足元では「国内需要減」「海外需要の減少」など外的要因に移っている。

 石油・化学企業の通常稼働への移行も鮮明だ。中国石油・化学工業連合会(CPCIF)によれば、業界の国有企業の3月末時点の稼働率は95%を超え、民間企業のそれも90%に近い。化学工業日報社による日系化学企業への聞き取り調査でも、4月に入ってからは時短勤務やフレックス制を解除したり、地下鉄通勤を解禁するなど通常稼働に戻した企業が大半だ。半導体や自動車関連工場が急速に稼働率を上げるなか、「仮需かもしれないが、3月単月でみれば過去最高益になりそうだ」との声も聞かれ始めた。

 それでも、企業活動をつぶさに眺めれば、完全復活へはまだ道半ばにある。

 悩ましいのが駐在員の帰還だ。3月末から中国政府が外国人の入国を全面禁止したため、多くが日本に残されたままだ。中国当局の調べによると、上海市に定住する日本人およそ4万人のうち、実に4割、1万5000人近くが日本に退避したままだという。先のジェトロの調査では6割の企業が「ほぼすべての駐在員が中国で業務にあたっている」とした一方、「半数以上がいまだに復帰できていない」とした企業も2割超に上る。

 8日の武漢市の封鎖解除を受けて警戒感は再び強まってきた。人の移動に神経をとがらせる北京市が新たな規制措置を設けたのに対し、上海市はフリーパスだ。感染第2波を恐れ、上海では社外との面談や地下鉄利用を再び禁止した企業もある。黒龍江省や広東省など地方では国外に起因する感染、いわゆる「輸入症例」が増えてきた。

 国内出張の可否の判断も難しいところで、「全面解禁は5月以降になりそう」(日系化学商社)との声が大勢だ。地方の顧客との面談が困難なことは、営業活動やテクニカルサポートなどに支障をきたし、きめ細かい対応を売りとする日系企業の強みの剥落につながる。

 大型の展示会も5月いっぱいは軒並み中止、延期に追い込まれた。正常化の指標とされる日本人学校の再開のめども立っていない。

 ジェトロ上海の小栗道明事務所長は「上海市内では、出勤や外食に対する危険感は相当程度和らいできたといえるだろう。それでも、輸入症例の発見が相次ぐなど、予断を許さぬ状況だ。日本人以上に現地スタッフの警戒感は強く、現場では業務に対するモチベーションやパフォーマンス低下を招いているケースも耳にする」と話す。(随時掲載)

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