新型コロナウイルスの感染拡大がいまだ続くなか、消毒用アルコールの代替として使用されてきた次亜塩素酸水に関する一連の報道が社会的な混乱を招いている。経済産業省の製品評価技術基盤機構(NITE)が5月末に公表した次亜塩素酸水の新型コロナに対する有効性評価試験の中間結果を受け、一部のメディアが「次亜塩素酸水の効果はない」という印象を与えるような伝え方をしたためだ。そのため次亜塩素酸水を導入していた施設、個人が使用を取りやめる動きが相次いだ。次亜塩素酸水の供給にかかわる企業も大きな打撃を受けたと聞く。

 NITEの中間結果では、実施機関である国立感染症研究所と北里大学の試験結果が食い違うなど、結果にバラツキがあったことは確かだ。ただ中間結果のまとめでは「効果についての検証試験は継続中であり、まだ結論は出ていない」と結ばれている。つまり中間結果では効果があるとも、ないとも言っておらず「現時点では結論を出すのは難しい」としている。にもかかわらず一部メディアが「現時点で有効性は確認されず」「濃度次第で消毒効果なし」と伝えてしまった。その報道内容自体は間違いではないが、読者や視聴者に「効果はない」との誤解を招きかねない伝え方だと言わざるを得ない。

 次亜塩素酸水の新型コロナに対する有効性については、北海道大学が6月2日に「微酸性のpH5・5、有効塩素濃度40ppm、電気分解方式による次亜塩素酸水で、強力な不活化効果があることを実証した」と発表している。ただ、このデータだけでは不十分であり、NITEは引き続き検証試験を実施しているところ。有効性の有無は、今月中にも公表される試験結果を待つべきだろう。もう一つの議論となっている次亜塩素酸水を消毒目的に空間で噴霧することについては、まだ人体への安全性を評価する科学的な方法が確立されておらず、現段階での使用は時期尚早と考える。

 報道機関は、専門的内容を分かりやすく読者・視聴者に伝えるために物事を単純化したり、一側面だけに光を当てがちだ。また記者は時間、字数など、さまざまな制限下での原稿執筆が求められる。専門的内容を、すべて把握することは確かに難しい。ただ今回の次亜塩素酸水の報道のように、データの一部分を切り出して強調して伝えることで、多くの人々に誤解を与えてはならない。まだ結果は判明していないが、新型コロナの感染拡大防止の有力な選択肢を失うことにもつながるだろう。報道に携わる者ならば、他山の石として自戒せねばなるまい。

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