人がコミュニケーションに求めるものは、コミュニケーションを通じて達成すべき所期の目的以上に、コミュニケーションそのものかも知れない。

 コロナ禍で接触をともなう対面販売が困難な化粧品業界で、オンライン上の対面販売が広がっている。リアルの対面販売では当然、消費者は化粧品がどのような商品であるかを知り、それがもたらす肌質の改善や肌トラブルの解決を期待して店を訪れる。そこで行われる双方向のコミュニケーションは知識と情報の移動であり、その目的は販売・購入である。

 それをオンラインに移行したものが“ライブコマース”だ。リアルの対面販売と同様、消費者は疑問や聞きたいことがあればチャットなどを通じて画面の向こうの美容部員に質問でき、回答を得られる。

 化粧品メーカーによれば、このライブ感が購買率を高めるという。ECサイトに商品概要を貼り付ける一方的な発信では、動画であったとしても対面販売を知る消費者は満足できない。おそらく販売側も購買側も、これまではっきりと気づいていなかった“リアルタイムの対話”の重要性が、コロナで浮き彫りになったと言える。

 外出自粛が続き、オンライン英会話を始める人が増えた。目的は語学力の上達のはずだが、続けていくうちに(オンライン上で)顔なじみになった外国に住む講師との会話が閉塞感の癒やしとなり、目的となる。定期的に会話していれば、彼らの背景にある日々の生活や人生を垣間見ることにもなる。

 そうなるとコロナが収束して実際に会う機会が訪れないとしても、講師には情が移る。結婚など人生の一大イベントを回線上とはいえ耳にすれば、祝福を送りたくなる。予約を土壇場でキャンセルする困った講師もいるが、その喪失感もリアルな感覚であり、録画された動画を受け身で視聴する学習スタイルでは得られない何かがある。

 目的に付随していたものが目的に置き換わるのだから、本末転倒かも知れない。だが一方ではステイホームによるストレスも問題視されている。パンデミック前には人との交流を面倒に思っていた厭世家といえど、実際に外の世界と断絶され、なお平気でいられるかどうか。

 人間は狩猟・採集時代から自らの身を守り、食糧を得るためにコミュニケーションを駆使してきた。そのDNAは現代人にも受け継がれている。ビジネスシーンだけでなく、個人の生活においても、まさに生き抜くためのコミュニケーションを、随所に組み込む工夫が求められてきたと言えそうだ。

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