新型コロナウイルス流行が引き起こした現象の一つとして、世界的なマスク不足が挙げられる。日本では1月末から店頭でマスクをほとんど見かけなくなった。開店前からドラッグストアに並ぶ消費者や「転売ヤー」と呼ばれる存在などマスクに関するニュースは毎日のように報じられ、ついに政府は、各世帯に布マスクを2枚配布すると発表するにいたった。一般的な家庭用マスクでは、ウイルスを防ぐ力が足りないとして「マスクに意味はない」という意見もよくみられたが、今は少なくとも大多数が外出時にマスクをつけており、生活必需品というべきものとなっている。
 もともとマスク着用の文化がなかった欧米でも、コロナ禍が深刻の度を増すにつれ、着用を促すよう流れが変わった。米国がマスクの買い占めに走っているとのニュースも報じられた。当分、世界的なマスク不足は続きそうだ。
 この間、マスクのフィルター機能を担うメルトブロー不織布が中国で10倍以上に高騰。原料を調達できずマスクの設備を稼働できない中国メーカーもあるようだ。中国ではメルトブロー不織布を大幅増産する動きもある。フィルター不足でマスクが生産できないような事態は早期に沈静化してほしい。
 ここで改めてマスクの意義について考えたい。一般的な家庭用マスクでは、ウイルスのような微細なものを食い止める効果は薄い。帯電メルトブローのようなフィルター層があっても、脇の隙間からも出入りすることを考えると100%の安全はない。高性能マスクの代名詞ともいえる「N95マスク」も、試験粒子を95%以上捕集できる程度にとどまる。
 ただし咳、くしゃみなどで飛散するウイルスを含む飛沫を防ぐ効果なら十分に期待できる。「人にうつさない効果」がよく言われるが、マスクをしていない人からの飛沫を止める効果を考慮すれば、非感染者が予防のためのマスクをする意味も大きいといえそう。飛沫だけを考えると、目が粗く、ウイルス抑制効果がかなり薄い布マスクやハンカチなどであっても一定の効果を発揮しそうだ。
 一方、飛沫の状態では阻めても飛沫が乾燥してしまえば、ウイルスが入り込むリスクは高まる。そこまで考えると、数時間ごとにマスクを取り換える方が安全だ。布マスクを何枚も持ち歩いて交換できればいいが、対応できる人は限られよう。
 結局、防護効果は限定的だと認識したうえで、正しく装着して他者にうつさないようにすることが、マスクの効果だと理解するしかない。

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