半導体材料、電池材料、ディスプレイ材料などの先端マテリアル分野においてアジア諸国、とくに中国の追い上げが激しさを増している。各国が先端マテリアル強国を目指し、猛烈に産業育成していることが背景だ。すでに日本企業の市場シェアや事業収益の悪化として顕在化しており、各企業も危機感をあらわにしている。
 こうしたなか政府は、2021年度から始まる第6期の「科学技術・イノベーション基本計画」において、マテリアル技術をイノベーション創出の重要基盤であると位置づけ、国家戦略として取り組む。輸出金額で大きな割合を占める先端素材は、日本経済を支えるとともに化学企業の中核事業であり、大いに期待する。
 とはいえ、日本が先端マテリアル分野で今後も大きな存在感を発揮できる保証はない。懸念の一つは投入資金だ。産業を代表する企業が数社程度の諸外国に比べ日本は企業数が圧倒的に多く、1社ごとの研究開発投資は限定される。大企業に集中している政府の研究開発予算も案件ごとにみれば結果的に小粒となり、ばらまき状態となる。
 もう一つはデータを活用したデジタル技術の存在感の高まりだ。日本の優位性のベースは、研究者の熱意、現場の匠の技、顧客との擦り合わせといったアナログ的な力であり、時間をかけてコツコツと積み上げてきた技術だ。こうした優位性は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)など研究開発手法のデジタル化で急速に薄まるとの指摘が強まっている。ブラックボックスだった匠の技は、国家レベルで膨大な実験データなどを集める中国などに早晩キャッチアップされる可能性がある。
 有限である資源を効率的に活用し、競合国に打ち勝つためには、どの材料にフォーカスするのか、思い切った選択と集中が必要だ。数多くの民間企業に分散している有用な実験データを一元的に蓄積し「オールジャパンの知」として活用できるかも重要な分岐点となろう。
 米ダウ・ケミカルのCEOだったアンドリュー・リバリス氏は、かつて「若者が化学をセクシーな産業と考えなくなった」と述べ、人材がIT系企業に流れる状況を憂いた。だが人類に新たなイノベーションをもたらす先端マテリアルの開発は、人生を賭けてでも挑戦する価値のある仕事ではないか。そうした化学産業の魅力を示し、優秀な人材を惹きつけるには、先端マテリアルで世界をリードするしかない。この分野で国際競争を勝ち抜くため、厳選したターゲットに、日本の資源を大胆に集中する決断を求めたい。

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