持続可能な世界を作り上げるため、リニアエコノミー(線形経済)からサーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換は急務だ。化学企業も多様な取り組みを続けている。コベストロのマーカス・スタイレマンCEO(最高経営責任者)が5月26日、ウェブカンファレンスで循環型経済を経営の根幹に据える方針を強調したように、企業の将来にとっても欠くことのできない事柄になっている。

 スタイレマンCEOは「循環型経済は世界全体を持続可能な未来へと導くものだ。それは気候中立を達成し、減少しつつある(限られた)地球の資源を守るための世界的な指針とならなければならない」と強調、「生産し、消費して廃棄するという『シングルユース』に将来性はない」と言い切った。

 そのうえで今後、①代替原料②革新的なリサイクル③協業④再生可能エネルギー-に集中する方針を示した。すでに具体化していることも少なくない。

 二酸化炭素(CO2)を原料にしたポリエーテルポリオールを生産する技術を確立して、温暖化ガスを代替原料にする道を切り拓いた。生産プロセスの中核技術は触媒で、RWTHアーヘン工科大学と共同開発した。独ドルマーゲン工場に連続反応で生産する年5000トン能力のプラントを建設、2016年12月13日に「cardyon」の商品名で初出荷している。

 使用ずみのポリウレタン(PU)製品をリサイクルする「PUReSmart」と呼ぶプロジェクトに参加し、革新的なリサイクル技術の開発にも取り組んでいる。幅広いPU製品を生産するベルギーのレクティセル社や、廃棄物の分別などに用いるセンサー技術に強いオーストリアの企業、開発や受託合成事業を展開するドイツ企業などに加え、ベルギーやスペインの大学も加わるもので、協業もプロジェクトの重要テーマだ。

 ウェブカンファレンスでは25年からドイツの工場で用いる電力の相当量を、海洋風力発電事業を手がけるデンマークのオーステッドから調達する計画も明らかにした。

 化学企業を取り巻く事業環境は厳しさを増している。コベストロの20年第1四半期の業績も減収益となった。難局を乗り切る施策を実行する一方で、今この時に同社が将来を見据えた取り組みを、さらに前進させることに賛辞を贈りたい。ぜひ化学産業の指標になるような実績を積み上げてほしい。

 スタイレマンCEOは最後に「循環型経済を、ともに実現しましょう」と訴えた。新しい道を拓くための協業が、さらに広がることも併せて期待したい。

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

社説の最新記事もっと見る