化学産業の事業環境は不透明さが続く。米中貿易摩擦に起因した世界経済の減速で厳しい環境を覚悟していたところに、今度は新型コロナウイルスにより自動車産業などの減産・休業、外出自粛による個人消費の落ち込みといった要因が加わった。その影響は化学製品の需給統計にも表れている。V字回復が見込めない状況の中で、各社は生き残りをかけて新たな事業形態を探っていく必要がある。

 国内のエチレン設備稼働率は3月に、6年4カ月ぶりに好不況の目安となる90%を割り込んだ。4月は91・4%まで持ち直したが、5月は再び89・4%と90%を下回った。コロナを巡る先行き不透明感から、緊急事態宣言解除後もメーカーが慎重姿勢をみせたことも要因だ。国内向けが低迷し4大汎用樹脂の出荷数量は揃って前年割れした。

 2019年度の生産量が5年ぶりに165万トンを下回った塗料は今年2月以降、減少幅が拡大。4月の生産量は前年同月比11・5%減で、溶剤系を中心に多数の項目が前年実績を割り込んだ。とくに自動車用途を含む項目で溶剤系・水系ともに減少幅が大きかった。食品包装関連など“巣ごもり需要”の恩恵を受けた化学製品があるものの、コロナ特需ともいわれる現象の先行きは不透明だ。

 政府は6月の月例経済報告において、景気の基調判断を「新型コロナウイルス感染症の影響により、極めて厳しい状況にあるが、下げ止まりつつある」とし、2年5カ月ぶりに上方修正した。今年4、5月にリーマン・ショック以来約11年ぶりに使った「悪化」という表現を削除している。緊急事態宣言の全面解除にともなう個人消費の持ち直しなどを反映させた。

 ただ感染症の影響により輸出は急速に減少、生産の落ち込みも指摘した。企業収益は急速に減少しているとする。一方で、企業の業況判断は厳しさは残るものの、改善の兆しがみられると、明るさもにじませた。

 だが、このまま化学産業を取り巻く製品需給動向が改善するかは疑問符がつく。企業のトップの多くは、緊急事態宣言が解除されて産業界が再び動き出しても、かつてと同じようなかたちには戻らないと指摘する。

 課題となったサプライチェーンについても調達先の多様化、柔軟性に重点を置いた戦略が求められる。生産面を含めてデジタル化の進展は避けられず、これにビジネスモデルをいかに近づけて効率化、生産性向上につなげていくか、難しい判断が突き付けられている。右肩上がりの製品需給が想定できないなかでも、事業の継続性・成長性両にらみの戦略が問われる。

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