【シンガポール=中村幸岳】シンガポールで外国人労働者の新型コロナウイルス感染者が急増し、化学産業にも影響が及んでいる。彼らの多くは専用宿舎に集団居住しており、クラスター感染が発生した場合、感染者以外も2週間の経過観察下に置かれるため、化学品生産設備の維持補修や物流業務などに従事する外国人労働者が一時減少することになる。同国に工場を置く化学メーカーも、人員配置を変更するなど対応に追われている。

 シンガポールの工場や建設現場で働く外国人労働者はバングラデシュ、インドなど南西アジアやミャンマーの出身者が多い。こうした人々の間で複数のクラスター感染が確認されるようになったのが4月第2週。21日時点でシンガポールの感染者数は9125人だが、うち8割に当たる7127人を専用宿舎に集団居住する外国人労働者が占める。

 製油所や石油化学工場が集積する同国ジュロン島では、化学メーカーだけでなく各種装置・設備の維持補修を担うエンジニアリング会社や、倉庫・物流関連企業が常時活動しており、現場には外国人労働者も多い。

 同島でメタクリル樹脂やその原料モノマーの工場を運営する住友化学アジアの酒井基行社長は「当社の設備運転を支援してくれている契約会社にも外国人労働者は少なくないため、影響はある」と話す。ただ現状、住友化学アジアとしての出勤者数に変動はなく事業も安定継続している。

 外国人労働者の感染者・濃厚接触者の一時隔離増加による影響は、ジュロン島内の製油所や化学企業の広い範囲に及んでいるとみられる。各社はそれぞれ原料・製品のやり取りで密接な関係にあり、1社の操業に問題が生じれば、その上下流に影響を及ぼすことも考えられる。酒井社長は「今後何が起こるか分からない」(酒井社長)と気を引き締める。

 現時点で、外国人労働者減で操業停止にいたったケースはないもよう。現場で一時的な人員減が生じた場合、メーカーは従業員の配置を変更するなどして安定操業を継続している。

 シンガポールの化学企業は、3月に隣国マレーシアが都市封鎖に入った際も操業継続のため人員確保に追われた。30万人に達するマレーシア人通勤者の大半が出国を禁じられ、そのなかには化学に関連する業務の従事者も多い。

 シンガポールでは21日、リーシェンロン首相がテレビ演説で部分的都市封鎖の強化と、6月1日までの延長を発表した。市中感染者数をゼロ~1ケタに抑え込むため外出制限を強め、多人数での外出など違反には罰金や実刑を科す。石油化学産業は引き続き、必要不可欠な産業として営業継続が認められている。

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