昆虫は、微生物を除き、地球上で最も種類が多い生物といわれている。たんぱく質源として豊富なことから、いま国内で昆虫食に対する関心が出始めてきた。2055年に世界の人口が100億人を突破すると予想されるなか、食料問題に対応し得るポテンシャルがある。飼料が少なくて済むのも特色だ。フードテックに定評ある日本企業が昆虫の食文化がある開発途上国をつなぎ、新たなビジネスが発展することを期待したい。

 昆虫食が先進国で注目を集めたのは、国際連合食糧農業機関(FAO)による「食品及び飼料における昆虫類の役割に注目した報告書」が13年に公表されたことが契機。FAOと蘭ワーヘニンゲン大学との共同調査研究によれば、世界では約1990種類を超える昆虫を人が消費している。多く摂取されているのが甲虫類、ケムシ、ミツバチなどのハチおよびアリ、イナゴなどだとし、食品素材や、産業化による家畜・魚の飼料へと展開できる可能性を挙げている。ただ農業被害をもたらすアフリカでのイナゴの大群は、いつ、どこで発生するか事前に把握できず、利用は難しいようだ。

 欧州では、日本より早く昆虫食への関心が高まっている。食品安全機関(EFSA)が今年1月、フランスの食用昆虫加工企業マイクロニュートリスの申請していた乾燥や粉末状にしたイエローミールワームを、ノベルフードとして人が摂取しても安全だと評価した。食用昆虫で初めての評価で、EU各国での販売に向け準備が進んでいる。
 イナゴや蜂の子の食文化がある日本。徳島大発ベンチャーで食用コオロギを研究するグリラスと機械・自動車部品大手のジェイテクトが、高品質な食用コオロギの食糧資源化推進で包括連携協定を結んだ。無印良品が扱って話題となったコオロギせんべいは徳島大の技術が用いられた。高崎経済大発ベンチャーのフューチャーノートも敷島製パンとコラボ実績がある。

 日本には現在のところ、国による規制や基準はない。今後、市場が成長した場合、新規参入が増えるのは確実だ。開発途上国からの昆虫原料輸入に際し、食用以外の有害昆虫の混入や、衛生的管理の下で飼育・生産・保存・加工されているのかといった心配のほか、アレルギーの問題も考えられる。
 国内草創期の現段階で、信頼できる高品質な製品を自主的に提供する先行業者はよいとしても将来、健康被害の防止・安全性の確保にかかわる指針やルールの整備が必要になる。国は、多様な食ビジネスが創出される前に、先手を打って規制などの準備を行うべき時期にきた。

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