新型コロナウイルス感染拡大防止のため、関西の中堅化学企業の多くも在宅勤務や時差通勤といった独自対策に踏み出している。政府の緊急事態宣言以降、より一層対応を強化しており、企業活動への影響を最小限に抑えながらも、新たな働き方を模索することで感染対策の両立を目指している。ただ、大企業とは異なり限られた人員での社内調整の難しさや、製品開発の遅れといった課題も浮き彫りになってきた。日々変化する状況に合わせ、非常事態への迅速な対応が求められるなか、柔軟な対策を展開している各社の取り組みを紹介する。

 大阪、兵庫、京都などに本社・工場・研究所を構える中堅企業(メーカー・商社)を対象にアンケートを実施。緊急事態宣言以降の感染症予防・拡大防止のための取り組みや工場の稼働状況について30社から回答を得た。

 在宅勤務の拡大を迫られるなか、多くの企業がテレワークを導入ずみだが、宣言後、より一層強化する動きが目立つ。石原ケミカル(神戸市兵庫区)は営業部門のテレワーク社員の比率を高めると同時に、一部管理部門にも拡大。アークレイ(京都市上京区)も宣言以前は一部部署にてトライアルで実施していたが、宣言以後、導入部署を拡大し、現在は全部署でテレワークを実施している。電子材料や試験研究用試薬を販売する林純薬工業(大阪市中央区)は「在宅勤務の実施率を引き上げていく」という。

 顔料・染料などを取り扱う専門商社の山本通産(大阪市中央区)は営業、管理などすべての部署で導入。中間物商事(大阪市中央区)も在宅勤務を実施した。各社ともテレワーク化しやすい営業部門のみならず、あらゆる部署で交代勤務やインフラ整備といった対策を講じている。

 ただ、導入を検討する企業が多い一方、テレワークや時差出勤を導入しないと回答した企業もある。「社内調整が困難で、営業部門でもテレワークのみの活動が行えない」、「送迎バスを使用しており、便数の調整が困難」、「少人数のため実施が難しい」など、中堅・中小企業ならではの課題もみえてきた。

 オフィス勤務と比較して、業務の特性上テレワークが難しいのが研究部門だ。フレックス制度の利用促進や一部自宅待機を命じる企業もあるが、在宅勤務が進んでいないのが実情だ。試薬、化成品などの製造販売を手がける片山化学工業(大阪市中央区)は「テレワークは困難であり、従業員の感染リスクを低減させるためには一時帰休を視野に入れて検討せざるを得ない」と話す。難しい状況のなかでもテレワーク導入を検討する企業は多いが、限られた人員のなかで、今後の製品開発への影響を心配する声もある。

 緊急事態宣言の期間中の工場稼働率については、MORESCO(神戸市中央区)が「現在は平常通りの稼働」と回答するなど、すべての企業が通常通りだった。工場が休業要請の対象となっていないことから、各社とも生産維持に努めている。

 しかし、6割近くの企業が今後稼働率低下の可能性ありと回答した。滋賀県甲賀市にあるアークレイの生産子会社は現在、操業をストップしている海外拠点の生産を引き受けて生産量は増えているが、「今後受注量の減少も予想され、そうなった場合は稼働率低下の可能性が考えられる」という。イサム塗料(大阪市福島区)は「継続して収益が10%以上ダウンすれば、従業員の一時帰休も選択肢としてあり得る」と回答。ロックペイント(大阪市西淀川区)は「取引先からの注文量の低下が予想される」と経済停滞の長期化を懸念する。「大口需要家である自動車業界の稼働が落ちているため影響は避けられない」ほか、従業員の家族(乳児)の保育所閉鎖により出社できない人員発生や、物流停滞による原材料の入手遅延などが今後の生産調整の要因になると予測する。

 物流拠点に関しては、林純薬は「作業スタッフの2班分散や他拠点スタッフによる緊急時代替要員を確保している」ため通常稼働を続けられる見通し。一方、化学品専門商社の小池産業(大阪市中央区)は現在は通常稼働だが「ロックダウン(都市封鎖)などの処置が取られた場合、部材供給が難しくなる」と指摘する。

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