遺伝子組み換え(GM)技術による高オレイン酸大豆の食品利用にあたり、表示義務を緩和する方向へ日本が動いている。健康志向製品が拡大基調にある食品市場で、オレイン酸は代表的なヘルシーオイル成分の一つとして市場を牽引している。非表示は高含有大豆油への関心を高める絶好のチャンスになる。一方で消費者側には、加工品の情報提供が得られないことに懸念を表す声もある。2023年4月からGM表示制度は「遺伝子組み換え不使用表示」が厳格化される。義務表示の有無には、まだ意見の相違が続くとみられる。

 オレイン酸は、オリーブオイルやべに花油に多く含まれるω-9系の不飽和脂肪酸。酸化されにくく、生活習慣病の予防に良いと考えられている。一般的な大豆品種のオレイン酸の脂肪酸比率が17~30%に対し、高オレイン酸大豆は80%以上ある。農業生産者の生産性向上に貢献してきたGM品種から一歩踏み出し、消費者にもメリットをもたらす。デュポンのアグリ部門グループ(コルテバ・アグリサイエンスが事業継承)によって開発され、米国ではプレミアムオイル原料として需要が多い。

 日本のGM表示制度では現在、高オレイン酸大豆が通常品種と栄養価などが異なる形質のため、特定遺伝子組み換え農産物に位置づけ、加工した食用油も表示義務がある。緩和は、食用油にした場合、表示義務対象から除外するというもの。理由は、今まで考えられなかった従来育種法でも高オレイン酸大豆が開発・栽培され、特定遺伝子組み換え農産物の形質に該当しなくなったからだとしている。

 表示義務除外に対する懸念は、除外の旨を盛り込んだ食品表示基準の一部改正案がまとまり、昨年10月から受け付けたパブリックコメントで発覚した。生活関連団体が「食経験がほとんどなく、表示を継続するべき」とのコメントを示した。その後、岸田文雄総理大臣の諮問に内閣府消費者委員会からの答申が今年1月下旬にあり、除外を適当としたが「任意で情報提供されることが望ましい」との意見が附帯された。

 米国では20年からバイオ工学食品情報開示基準が施行され、マーク添付など22年1月から義務化されている。ただ高度に精製され、組み換え遺伝子が検出されない油脂や砂糖などは表示対象外だ。

 健康増進のための市場成長を考えれば、ラベル表示義務は不要。むしろ加工メーカーはGM高オレイン酸大豆の栄養価値などの利点をQRコードや自社サイトを通じ、情報配信しGM品種のイメージ改善に努めてもらいたい。

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