政府が海外からの入国制限緩和にようやく動き出す。岸田文雄首相の下、日本の新型コロナウイルス感染症の水際対策は段階的に延長され「先進7カ国(G7)で最も厳しい」状況となっていた。この間の入国制限はビジネスパートナーである海外企業の対日戦略に影響を与え、日本のグローバル化を支えるであろう海外留学生の入国足止めにもつながった。緩和とはいえスピードは遅く、このままでは世界に後れを取る。感染状況を的確に捉えて、将来が見通せる緩和の方向性を早急に示すべきだ。

 オミクロン株の市中感染が拡大する一方、重症者率の減少などを踏まえて、経済界は水際対策の意味が薄れたとして緩和を求め始めていた。政府は3月から1日の受け入れ上限を3500人から5000人に引き上げ、観光客以外の外国人の新規入国についても順次受け入れを再開する方針という。ただ上限5000人は留学生やビジネス目的、技能実習生などを合わせた総数であり、その時期や対象人数など希望者に不安は残る。

 1月の訪日外国人数は1万7800人で、1年前に比べて6割以上減ったという。政府によると、事前承認を得て待機している外国人は今年1月初めの時点で約40万人、うち留学生は15万人超だ。水際対策は、日本で活動する外国企業などからビジネスに悪影響を及ぼすとの批判も出ていた。実際、在日企業の中に損失が出ているところもあり、従業員が来日できず事業に遅れが生じたケースもあるという。これでは日本が長期的に信頼できるパートナーに値するか疑問が生じ、投資にも慎重にならざるを得ない。

 留学生に関しても、受け入れを再開した米国や英国、豪州などと異なり、厳しい制限を続けて「鎖国」同様の日本に対し各地で批判が起きている。足止めされた留学生は日本を諦め、韓国など他国に流れるケースもある。これが続けば日本企業に就職する可能性がある優秀な海外人材を失うことになりかねない。

 不透明ななかで将来的な方向性を示すのが難しいことは確かだ。大幅な緩和策をとれば感染が拡大した際のリスクも当然あるため、状況をみながら段階的に進めていくことになるだろう。

 日本はかつて、産業分野で優れた技術や習慣を持ちながら、海外に門戸を開いていないことから「ガラパゴス化」というビジネス上の造語もできた。経験を生かして、日本に興味を持つ企業や人材をつなぎ止めるためにも、安心できる効果的なプランを発信することが必要だろう。危機感を持って的確な行動を起こして欲しい。

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