昨年来のコロナ禍により航空機産業が大きな打撃を受けている。航空機向けを主用途の一つとしてきた炭素繊維業界に大きな影響が出ている一方で、炭素繊維の優れた特徴を生かした新たな用途が見いだされている。

 hide kasuga 1896(東京都港区)は、炭素繊維複合材料(CFRP)の中でもソフトさを売りにした「ソフトカーボン」を用いて高級ブランド用途を開拓している。ソフトカーボンの技術自体は知られていたものの、同社は「ルック&タッチ」にこだわり、明確な開発コンセプトの下、感性的価値に重点を置くことで高級ブランドとして有名百貨店からも高く評価。「レクサス」や「ライカ」にも同社のブランドを表記するかたちで採用されるにいたった。ブランドを確立したうえでガラス繊維や天然繊維なども価値ある素材として取り扱っていく考えだ。

 同社代表の春日秀之氏は、家業である工業資材メーカーの社長を務めた経験があり、工学博士として科学的知見も持つ。そういったバックボーンに支えられ、常に川下に身を置いて市場のトレンドを肌で感じ続け、ブランド価値を高めることに成功してきた。コロナ禍以降、炭素繊維大手などとの関係性も強まっているという。こうした実績を武器に、いずれは自動車内装など量産型ビジネスに打って出ることも目指している。

 1980年代から90年代に建てられた木造アパートの耐震補強。「お金になりにくい」としてほとんど手付かずだったが、そこに新たな技術提案を行うのがデザインアンドイノベーション(東京都大田区)の坂本明男社長。CFRPプレートを数多くのビスで柱に固定する使い方は、繊維を断裂させるため通常好まれないが、揺れなどによるエネルギーを吸収し、居住者が逃げるための時間を稼ぐための耐震工事を、従来の発想に比べて安価・容易に実現できる。事業化できれば人命を守る意味で社会的な意義は大きい。坂本氏は炭素繊維の製造会社で新たな紡糸方法を開発した経験を持つ技術者。木材とCFRPプレートを木工用ボンドで接着させる手法(母材破壊が先に起こるため十分な効果がある)も試すなど柔軟な発想で用途開拓に取り組んでいる。

 いずれも技術的知見を持ちつつ、市場のニーズを確実に把握して価値のある商品を生み出していることがポイント。素材をよく理解しながらも、常識にとらわれず新商品を生み出すのは難しい。しかし、さまざまな素材において新たに創出できる世界があるはず。柔軟な発想でフロンティアに挑んでほしい。

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