近年、空き家問題がクローズアップされている。空き家には販売中の住宅や賃貸の入居者待ち、別荘など常時使用しないものも含まれるが、これらは管理者がおり、メンテナンスが行われるため対象外。問題となるのは、それ以外の住宅だ。

 高齢者の転居、死去などで住む人がいなくなり、何年も放置されている住宅は少なくない。総務省の住宅・土地統計調査によると、2018年の全国空き家数は849万戸と過去最多で住宅総数の14%を占める。しかも都道府県を問わず、全国的に広がっているようだ。管理の行き届かない空き家が増えることで防災、衛生、景観、防犯などの面で社会問題が起きている。空き家比率の高い住宅街はインフラ維持の観点からもコスト高が課題となる。直近では7月の豪雨被害に遭った九州地方で、浸水被害を受けた空き家に清掃作業などが入らず、悪臭や倒壊リスクが問題視されている。

 14年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定された。放置すれば倒壊の危険があるなどと判断された家屋に対し自治体による立ち入り調査や所有者への助言、指導、勧告、命令、行政代執行が可能になり、傍観するしかなかった空き家問題に一石を投じた。ただ資金のない所有者は、促されても対処が難しいケースもあり、行政代執行にも費用がかかる。可能であれば所有者にメリットのあるかたちで再利用できる方法を見いだすことが望まれる。

 そのための選択肢の一つが大規模リノベーションだ。家づくりは壊して新たに作り直すのが主流だったが、今ある資産を有効に使えれば意義は大きい。3年前から全国的に戸建て住宅のリノベーションプロジェクトを推進するのがYKK AP。全国各地の工務店と組んで、老朽化住宅を新築以上の性能に引き上げる取り組みを行っている。

 躯体、壁などが劣化した住宅のリノベーションでは、耐震性や快適性を懸念する人は多いだろう。不安払拭のため、すべての壁などを取り払い、問題のある部材は取り換え、使える部材は生かすことで、耐震、断熱、快適性などを高性能の新築同様のレベルに引き上げられることを実証してきた。先ごろ発表した静岡県の物件では、震災で壁に亀裂が入り、シロアリ被害もあった住宅で断熱性能「HEAT20G2」、耐震等級3という高いレベルを実現できた。しかもコストは新築に比べ2~3割抑えられたという。 

 リノベーションに向くのかどうかは諸条件で変わろうが、家づくりの有効な手法の一つとして、より多くの事業者が選択肢に含めてよいだろう。

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