「自分が罹りたくない病は」というアンケートすると、がんを抜いて断トツなのが認知症なのだそうだ。患者本人はもとより、家族などの周囲の負担が大きいのも理由だろう。
 認知症には、いくつかのタイプがある。全体の7割近い「アルツハイマー型認知症」は、加齢のほか、糖尿病や高血圧によってリスクが高まることが知られている。次に多い「血管性認知症」は60歳以上の男性に表れるケースが多く、やはり糖尿病や高血圧などの生活習慣病になるとリスクが高まるとされている。つまり正しい食生活や運動によって、ある程度は予防可能ということだ。
 エーザイと、ディー・エヌ・エーの子会社であるDeSCヘルスケアは、認知症の予防に役立てるスマートフォン向けアプリの提供を始めた。ユーザーの歩数・食事・睡眠・体重の記録を基に、週替わりで食事内容や運動などに関する推奨メニューが提示される。メニュー実施記録から、ブレインパフォーマンスによい行動や習慣について独自のスコアリングが行われる。アプリを利用するたびにマイルが貯まり、貯まったマイルはギフト券などに交換できるという。これならばモチベーションが上がりそうだ。
 三谷産業は、米サヴォニックス(本社・サンフランシスコ)が開発・運営する認知機能評価アプリケーションを、40歳以上の社員を対象に導入すると発表した。スマートフォンやタブレットにダウンロードして1回20分弱の簡単なテストなどを行うと、認知症発症の予兆を早期に発見できる。従来の健康診断に追加することで、高齢になっても健康に働き続けられる環境を提供していくという。
 2020年版高齢社会白書によると、65歳以上の人口は3589万人。総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は28・4%で「超高齢社会」である。少子化が進み、高齢者を支えられる現役世代は減少傾向にあるため、高齢者は健康を維持して少しでも長く働くなど、自身でより良い人生設計をすることが求められている。21年4月には高年齢者雇用安定法の一部が改正・施行され、企業は今後、70歳までの就業機会を確保することが努力義務となる。
 高齢者に働いてもらううえで認知症は深刻な問題だ。サヴォニックスの調査では、12年の日本人の認知症患者の割合は3・6%だが、50年には9%まで上昇すると予測している。
 アプリなどを活用して健康な生活に向けた診断やアドバイスを受け、少しでも認知症の予防に取り組める環境を作っていくことが重要といえるだろう。

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