中国で新型コロナウイルス感染症が報告されてから間もなく2年。パンデミック(世界的大流行)に陥るなか、国際的にも高い医療水準を誇るとされてきた日本も、そこからは逃げられなかった。コロナ禍で顕在化した課題は多いが、感染症に対応できる医師らが少ないということも、その一つに挙げられる。新たな変異株「オミクロン株」が確認されるなど先行き予断は許さない。流行が抑えられている今だからこそ、将来を見据えた取り組みを進めていく必要がある。

 長らく感染症の脅威から無縁だったこともあり、近年の日本の感染症専門医の数は低いレベルで推移している。日本感染症学会の認定専門医は今年8月時点で1622人に過ぎず、10県で1ケタの人数にとどまる。大都市を抱える大阪府や京都府、千葉県などでも100人に届かない。その数は人口に比して少なく、コロナ禍での医療ひっ迫を招く一因ともなった。

 新型コロナのみならず未知の感染症到来に備えるため、各地の大学などで専門医育成に向けた取り組みが広がっている。今年4月、感染症研究で定評のある長崎大学は「感染症医療人育成センター」を開設し研究、臨床、それぞれで活躍できる医療従事者の養成に力を注ぐ。医師に加えて看護師や薬剤師、臨床検査技師らも対象だ。信州大学も長野県と「県医療教育研修センター」を立ち上げた。同センターでの教育だけでなく、県内各地の病院などにもオンライン教育できる仕組みも構築している。

 10月には東京医科歯科大学病院が「感染症内科」を新設した。「グローバル感染症制圧プラットフォーム」構想の一環で、新興感染症も想定した診療・研究を担える人材を育成する。さらには感染症に対する治療法の開発、保健行政、危機管理などに通じた人材の輩出も目指す。歯学部を擁する強みを生かし、歯科領域で発生する感染症もターゲットに位置づけている。

 感染症に精通した医療従事者育成の取り組みは始まったばかり。一朝一夕にはできないことを考えると、こうした取り組みを継続できるような支援を制度的にも財政的にも整えることが欠かせない。

 日本感染症学会が昨年7月にまとめた要望書の通り、全国の医学部に感染症を学べる講座を置くとともに、専門医の数を3000~4000人まで引き上げることが喫緊の課題だろう。また歯科医らでも新型コロナワクチンの接種を可能とした時と同様に、パンデミックに際し、医師にしかできない医療行為をどこまで開放するかも詰めておくべきだ。

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