【北京=但田洋平】2カ月半の延期を経て中国の全国人民代表大会(全人代)が開幕した。中央政府は内外にコロナ収束を印象づける狙いだったが、北京は本回復とは言い難い状況だ。「首都防衛」のための多くの規制措置の後遺症が残り、今なお市民の警戒、自粛ムードは強い。日系企業の操業再開も道半ば。現地は全人代後の正常化を期待する声に包まれている。

 市内中心部に位置するホテルニューオータニ系の長富宮飯店。全人代開幕日の22日、館内は閑散としていた。フロントクラークは旅行者や出張者がこないため、稼働率は2割に満たないと教えてくれた。日系企業の多くがグループでの食事を控え、飲食店も開店休業が続く。地下鉄では、蒸し暑いのでマスクを下げ鼻の頭を出していると駅員にすぐに注意される。

 市内を東西に貫く幹線道路、長安街では渋滞もみられ、地下鉄も朝晩は多くの通勤客が利用するなど以前と変らぬ日常を取り戻したように見えるが、内実は異なる。一部の企業はいまだ時短・シフト勤務を続けている。日系企業を訪問すると、「春節後、市外からの来客は初めてだ」と何度も言われた。ゴルフはできるが、多くのクラブハウスではまだ食事がとれず、シャワーも使えない。

 中国日本商会と日中経済協会が5月11・12日に実施した北京の日系企業へのアンケートでは駐在員の復帰率は77%にとどまる。工場や店舗を営む事業者に4月の稼働率を聞いたところ、「前年同月比で8割以下」との回答が56%に上った。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)の北京事務所関係者は「上海とは回復度合いに一カ月程度の差がある」と語る。それを端的に表わすのが、疫病など公共衛生に関する「重大突発公共衛生事件」レベルの1級(とくに重大)から2級への引き下げ時期だ。上海の3月23日に対し、北京市は4月29日まで維持された。1級は国務院の直接指示を受け、2級になれば省が独自に規制を緩和できる。

長期化した厳格規制

 北京は全国的にみてもかなり厳しい規制措置が敷かれてきた。春節明けの2月3日から操業再開を認められたが、多くの日系企業が出勤を停止した。国内感染が拡大するなか、14日には市外から入って来る者すべてに14日間の自宅・集中監察を義務づけ、26日には対象を日韓など海外に広げた。

 3月に入り、輸入症例が拡大してくると中央政府は全人代の早期開催のためにも首都防衛の姿勢を鮮明にし、19日には入国者すべてに集中隔離措置を厳格適用。23日には国際線の北京への直行便を停止し、天津やフフホト(内モンゴル自治区)など12の地方都市で一度検査し、陰性者のみ入京を許可した。

 企業の操業再開の足かせとなったのが、事業所内の出勤比率の50%以下への抑制策だ。3月中旬に解除されたが周知されず、4月に入っても常態化していた。海外帰国者には2週間の集中隔離措置に加え、さらに7日間の自宅監察を強いる「プラス7」の措置も適用された。

 4月29日に国内の低リスク地区からの入京者の隔離監察が不要になったが、外国人は北京市を出入りすると、健康アプリの安全証明が機能しなくなるといったケースが散見され、企業活動の本格化の阻害要因となった。

全人代後の回復期待

 きょう28日の全人代の閉幕は、こうした北京の自粛ムードを取り払う契機になるはずと現地では期待されている。日本商会の一部の部会は月末に会合を予定しており、「北京で30人程度を集める催しは春節後初めて」(ジェトロ)となりそうだ。

 外交関係者は「北京も多くの規制が解除されたが、出張や外部との面談、グループでの集まりなど企業活動にはまだリスクがつきまとう。こうした雰囲気を全人代後には一掃して欲しいというのが日系企業の本音だ」と語る。(おわり)

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