【上海=但田洋平】2カ月半、実に77日間にわたって続いた湖北省武漢市の封鎖が8日、解除された。世界で最初に新型コロナウイルスの感染が拡大したとされる同地の開放を、中国政府はウイルスとの戦いの勝利宣言として世界に伝えた。しかし、地元メディアが演出する祝賀ムードとは裏腹に、現地ではいぜん厳しい規制や自粛ムードが続く。自動車関連工場も足元ではフル稼働に達するが、現場は感染リスクの恐怖に包まれている。

 湖北省では感染状況の改善を受けて3月11日から企業活動が再開されていた。中心都市である武漢の封鎖解除によって経済正常化に向けて全面的に動き出したことになる。現地報道では4日までに同省の売上高2000万元以上の工業企業の97%、サービス業の93%が操業を再開したという。武漢市政府は今月末までに鉄道や航空機の運航、貨物輸送の全面再開を目指している。

 中央政府は企業活動の本格化を指示しており、解除に先駆けた6日、中国石化(INOPEC)とSKグローバルケミカルの合弁の中韓(武漢)石油化工は休止していたエチレンプラントの増強工事の再開式典を実施。来年初を目指し、30万トン増の110万トン体制に引き上げる計画だ。エチレン設備の稼働は続けてきたが、増強工事も再開することで石化部門の本格的な再始動を印象づけた。

 武漢市は1月23日以来、人の移動を制限するため都市を封鎖し、同市を出発する高速鉄道や航空便を停止してきた。25日には中心地の車両通行、2月14日には全ての集合住宅で市民の外出を禁じた。

 当局の発表によれば、湖北省の新規感染者はピーク時は1日2000人超に達したが、封鎖措置が奏功して3月に入ってからは2ケタ以下に減少した。10日には習近平国家主席が武漢入りし、11日からは省内の企業活動が本格的に再開された。25日には武漢以外の都市の封鎖を解除している。

 武漢市の1~2月の大手企業の鉱工業生産額は前年同期比32・6%減少した。1月中旬までは操業していた企業も多く、半導体工場などは生産を続けてきたが、自動車工場などの停止が響いた。

 実際、半導体大手、紫光集団傘下の長江存儲科技(YMTC)の設備は封鎖期間中も稼働を続けていた。クリーンルームなどの設備は急に止められないことに加え、国の半導体産業の育成政策も稼働継続の背景にあった。

 他方、自動車や関連部材工場は停止を余儀なくされ、ホンダと東風汽車の合弁である東風ホンダの武漢工場も、省政府の企業再開の延期指示により生産再開できずにいたが、3月11日、約1カ月半ぶりに部分的な生産再開にこぎ着けた。武漢工場の年産能力は60万台でホンダの中国における生産能力の5割を占める。「4月以降はフル稼働し、1~3月分を取り戻したい」(ホンダ広報)考え。

 11日に稼働を再開したホンダ系の樹脂成形部品メーカーの代表の話によると、設備稼働率は11日からの十日間は10%以下にとどまったが、28日までに3割程度まで回復し、4月2日には75%程度まで上昇。「足元は19年のフル生産並みの100%稼働に達し、残業も日課になっている」という。

 もっとも、工場の稼働は感染リスクの恐怖との隣り合わせだ。「従業員の誰もが感染を恐れながら作業している。作業者が向かい合わずに作業できるよう配置換えをするなど、細かな工夫を積み上げてリスクを低減している」状況だ。また、日本人が不在のなか、現地スタッフだけで対応している工場も多い。日本に退避中の別の部品メーカーの代表は「コンプライアンスなどの面で不安が残る」とこぼす。

 封鎖が解除されたとはいえ、市内の行動規制が完全に解かれたわけではない。休校が続き、多くの会社は休業したままだ。飲食店も店内の飲食が認められず、先の総経理は「遊ぶ場所もなく、従業員のストレスがたまっている。心のケアが心配だ」と語る。居住区の多くは出入り口を1つに絞り検温などのチェックが厳しいため、「朝晩は渋滞ができる」(ホンダ関係者)。出退勤以外の外出制限時間を設けているマンションもある。

 武漢の解除は感染「第2波」のリスクになるとの懸念も強い。北京市はいぜんとして厳しい移動制限をとり、武漢との航空便は直行便の再開を延期し、武漢市から北京市に入った場合は2週間の隔離を義務づけた。解除後に多くの武漢市民が上海に流入したとの報道もあり、上海市の日系化学企業においても、スタッフの公共交通機関の利用を再び禁止したり、解除された8日から起算して2週間における在宅勤務を再び指示したケースもみられる。(随時掲載)

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