【上海=但田洋平】中国の2020年第1四半期(1~3月)の経済成長率は前年同期比マイナス6・8%と四半期ベースで初のマイナス成長に陥った。3月単月の主要経済統計は改善傾向にあるものの本格回復にはほど遠い。足元では日系化学企業の工場もフル操業が珍しくないが、「在庫積み増しのための仮需」との向きが多い。自動車販売が振るわず、外需の一段の落ち込みが予想されるなか、第2四半期以降のV字回復に暗雲が漂う。

 中央政府が厳格な移動制限や操業規制を敷いたことから1~2月の中国経済は壊滅的な打撃を受けた。3月は多くの指標で改善傾向がみられたが、正常化はまだ遠い。3月の固定資産投資は6・0%と増加に転じたが、製造業は25・2%、インフラは19・7%のマイナスと振るわない。都市部の3月の失業率は5・9%と高く、年間の政策目標である5・5%前後を上回っている。1~3月の成長率のうち、第2次産業は同9・6%の下落となり、生産や物流の停滞の影響を如実に反映した。

 化学企業の足元の操業率は決して低くない。生産の動向を示す工業生産高は3月単月の減少幅が1%程度に縮まり、1~2月(13・5%減)から改善。化学原料および化学品製造業の付加価値額も1~2月の12・3%減から3月は0・7%増と前年並みに戻した。

 それでも、現状は「1~2月に生産できなかった顧客からの在庫積み増し要請にともなう仮需の様相が強い」(日系大手化学)。オンライン教育の普及、巣ごもり消費の拡大を受け、アップルのタブレット端末「iPad」や任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」などが店頭で品薄状態となり「一部の樹脂需要は一時的な特需に過ぎない」(日系商社)。外出自粛でネット販売が拡大し、「包装資材に使う粘着剤などは残業しても需要に生産が追いつかないくらいだ」(日系化学)。

 半導体工場は春節(旧正月)期間中も操業していたため、「関連の薬剤やガス、基盤関連の事業は絶好調。ただ、通年でみれば昨年より落ち込むというのは業界のコンセンサスになりつつある」(大手日系化学代表)。

 一早く不調の兆しが見え始めているのが液晶パネルだ。パネル大手の京東方科技集団(BOE)は2~3月と増産を続けてきたが、欧州需要の当てが外れ、パネル価格が急落していることから「減産を指示し始めた」(パネル部材メーカー)。

 自動車はいまだ冴えない。3月の新車販売台数は43・3%減となり、21カ月連続の前年割れ。「中国の国内総生産(GDP)の1割を占める車産業の回復がなければ化学企業の回復もままならない」(別の日系大手化学)。中国の自動車生産は前年の8割程度まで回復してきたといわれ、地方政府の多くも自動車購入補助金の支給政策で下支えしようと躍起だ。車の販売が前年並みの水準に戻る時期が、景気回復に大きく影響してくる。

 また中国の輸出は、1~2月の17・2%減から3月単月では6・8%減とマイナス幅は縮小した。それでも今後の改善は不透明だ。経済活動が正常化に向かいつつある中国とは対象に、欧米市場は感染拡大の収束時期が見通せない。日系企業のエンプラやコンパウンドなどの工場でも、車部材はかなりの部分を海外に振り向けており、「直近は仮需で潤っているが、5月以降の急速な需要減を見越し稼働を落としつつある」(繊維大手)。

 エレクトロニクス市場では年末にかけて悲観的な観測もくすぶる。中国は通常、夏場以降に米国のクリスマス商戦向けに製品在庫をためるが、「今年はそれが期待できず、8月以降、急速に需要が減退するとみている」(商社筋)。

 大和総研は4~6月の実質GDP成長率についても、マイナス幅は縮小するものの2四半期連続の前年割れを想定している。経済調査部の齋藤尚登主席研究員は「年後半の本格回復を想定しても、年間成長率は1・5%程度にとどまるだろう」と見通す。(随時掲載)

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