住宅の省エネ化を進めるのに絶好の機会が訪れている。建築物分野は国内エネルギー消費の約3割を占め、カーボンニュートラル実現に同分野のCO2排出削減は欠かせない。コロナ禍以降のテレワーク普及による「おうち時間を快適に」の掛け声もあって、在宅時間をストレスフリーで過ごすための工夫が取り入れられやすくなっている。

 YKK APでは、窓リフォーム需要が大幅に増えている。アルミ樹脂複合窓や樹脂窓への交換、内窓の設置で断熱効果を大幅に高められる。内窓リフォームの最大の動機付けとなるのは防音効果。日中、自宅で勤務するに当たり屋外の騒音を和らげたいとのニーズに応えている。騒音対策のリフォームであっても暑さ、寒さを軽減し、冷暖房のための電力削減や居住空間の快適性向上につながる。

 国もカーボンニュートラル実現へ住宅省エネを強く後押ししている。2025年から住宅の省エネ基準の義務付けられることも決まった。4月に閣議決定していた「建築物省エネ法等改正案」が6月の参議院本会議で可決、成立した。すべての新築に「断熱等級4」以上が求められる。本来20年からだった義務化が見送られ、このまま霧散することも懸念されたが、諸外国に比べて圧倒的に低いレベルの等級4すら義務化されないことに危機感を持った有識者らから声が上がっていた。

 今回義務化されたのは等級4レベルだが、この等級は長らく“次世代省エネ基準”とも呼ばれてきたもの。その実は、20年以上も前の1999年に定められており、断熱性能はUA値(外皮平均熱貫流率)で0・87(6地域)に過ぎない。国は30年に新築についてZEH(ネットゼロエネルギー住宅)水準の省エネ性能確保を目指し、50年には住宅ストック平均でZEH水準を目指している。その実現のためにも目安となる上位等級が求められていた。今年4月に「等級5」が新設され、さらに10月に「等級6」「等級7」が施行される。等級7のUA値は0・26と段違いだ。住宅販売では省エネ性能の表示が推進され、既存建物の省エネ改修にも低利融資制度を創設する動きもある。

 地政学的リスクの顕在化によるエネルギー需給の逼迫など、カーボンニュートラル以外の面からも高断熱の意義は高まっている。補助金制度やUA値を工務店が学んでいないケースもあるようだが、ようやく動き始めた高断熱化の動きを、さらに加速する必要がある。適用しやすい商品の開発に加え、まだまだ理解が不足している消費者や工務店への啓蒙活動を業界一丸となって推し進めてほしい。

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