暖房用ガスの消費量が増える冬場に向け、欧州諸国が天然ガス確保に苦慮している。温室効果ガス(GHG)の排出が相対的に少ない天然ガスは、再生可能エネルギーへの中継ぎを担うエネルギーとして重視されるが欧州、とくにドイツは、石炭火力発電削減のためロシア産ガスへの依存を深めていたことが裏目に出た。GHG排出や廃プラの削減によるカーボンニュートラル実現に国際協力が欠かせないのは確かだが、コストを国外に押し付け、外部化することはあってはならない。

 ロシア・ウクライナ戦争の以前、欧州は天然ガスの40%以上をロシアから輸入していた。2005年に比べ、その比率は倍増。ドイツはガス火力発電を急速に増やした。独連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)によると、00年の発電量の約5割を占めていた同国の石炭火力は、20年には3割以下に減少。独連立内閣は昨年11月、早ければ30年にも石炭火力をゼロにすることで合意していた。

 ただ見方を変えると、自国の排出削減のため、資源開発にともなう排出をロシアに付け替えてきたようにも映る。

 カーボンニュートラルの実現に多国間枠組みの構築が不可欠なことは論をまたない。再エネやグリーン水素、CCUS(CO2回収・貯留・利用)の活用余地は自然環境や国土、資金力に左右され、規模が大きいほど一国で完結させるのは難しい。例えば英BPは最近、アラブ首長国連邦アブダビの企業2社を、英国での大型グリーン水素製造計画に引き入れた。

 しかし廃プラを巡る状況をみると、自国の排出を他国に押し付けているようなケースもみられる。

 今年2月に、スリランカは不法輸入された廃プラを含む廃棄物コンテナ260個分を輸出元の英国に送還した。マレーシアは19年以降、コンテナ約300個分以上の不法輸入廃プラを送り返している。輸出元の多くは欧米など先進国だ。世界的に廃プラ再生投資拡大に舵が切られたのは、中国や東南アジアが輸入を禁止・制限した2010年代後半以降。「環境」の名の下、国・地域のエゴがぶつかり合う現実がある。

 日本の化学産業に目を向けると、石油化学事業の切り離しが進みつつある。排出削減の一手と言えるだろう。しかし、例えば汎用樹脂も、自動車をはじめ、あらゆる日本の製造業を支える極めて重要な素材だ。石化品はグローバルコモディティではあるが、輸入に多く依存する「外部化」が急速に進むとすると、昨今の為替動向をみても懸念が残る。バランスの取れた排出削減策を望みたい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る