日本の化学企業の事業拠点も多い東南アジアや南アジアでは都市封鎖が徐々に解除されつつあり、シンガポール、マレーシア両国は8月10日からビジネス出張を条件付きで相互に解禁する。域内経済の柱である輸出は6月、シンガポールやインドネシアで前年を上回ったが、工業生産はインドネシア、タイなどで前年比減が続き、経済回復には相当の時間を要しそうだ。こうしたなかでも、域内に拠点を置く化学企業は次なる成長のカギを見極めようとしている。
 コロナ禍によるオフィスの変化について、ある欧州化学企業の地域トップは「デジタル技術による『バーチャルなリーダーシップ』への移行を経験したのは大きな学びだった」と話す。在宅勤務体制下で、むしろ多くのミーティングに参加し、発信とコミュニケーションを増やせたという。一方、リモートワークで「会議への同席や、チーム内でのふとした会話などを通じて、若手社員にビジネスを学ばせることが難しくなった」との声が聞かれた。新規事業にも遅れが生じる。サプライヤーや顧客、提携相手の事業拠点を訪れて状況を把握したり、相手先と信頼関係を構築するにはリモートワークでは限界がある。
 アジア太平洋地域ではサプライチェーン再整備がテーマに挙がる。インドのモディ首相は5月、「経済やインフラ、サプライチェーンの『自給自足体制』が必要だ」と強調した。日本円で約5兆円にも上る対中国貿易赤字の削減が念頭にあるもよう。日系企業は東南アジアで早くから生産拠点を設け地消地産体制を築いてきたが、南アジアでもこうした拠点づくりや現地パートナーとの連携・協力がより重要性を増す。ただインドやインドネシアではコロナ禍で信用状(L/C)発行や支払いが大幅に遅れ、与信管理の難しさが再認識された。商社は「より信頼できるパートナー選びが今後のカギ」と話す。
 最近印象に残ったのは「よりよい在宅勤務環境の整備などを通じ、社員にコロナ後の世界が灰色ではなく希望が持てるものだと捉えてもらいたい」というある日系企業地域代表の言葉。景気の先行きは不透明だが、ボトルネック解消や非効率性の排除には良い機会といえる。
 M&A(買収・合併)の好機でもある。イネオスのBP化学事業買収、ダイセルのポリプラスチックス完全子会社化などに続く案件が今後出てこよう。米ダウは、テキサス州などにある自前の港湾・物流施設の売却を検討しているという。廃プラ規制の強化や通商政策の変化も捉え「灰色でないコロナ後」のための成長戦略が必要だ。

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