科学技術強国を目指す中国の勢いが止まらない。質の高い自然科学研究を発表している機関・国を分析・公表するデータベース(DB)「ネイチャー・インデックス」が今年6月、中国の研究機関が成果を大きく伸ばしていると報告した。これに続き今月、文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が「とくに被引用率が高く、高い注目度を持つ論文数」(トップ1%補正論文数)でも中国が世界1位となったと発表した。中国が最先端を走る分野も出てくるなかで今後、わが国は、どのようにこの国と向き合っていくべきか、考え直す必要がある。

 今年のネイチャー・インデックスのレポートによると、トップテンの機関のうち4機関が中国関係。中国科学院が2012年から首位を維持しており、米ハーバード大学、独マックス・プランク協会が続く。22年は中国科学院大学が8位と初めてトップテン入りしたのに対し、日本で唯一ランクインしていた東京大学は14位と、前年の8位から順位を落とした。大規模で定評のある研究機関を通じた投資が、中国の自然科学分野での持続的な研究成果をもたらしているという。研究に対する中国の投資は域内総生産(GDP)の2・4%と際立ち、研究機関の論文発表数の大幅増につながっている。

 日米独仏英中韓の主要7カ国の研究開発費や研究者数、論文数などを分析したNISTEPの調査でも、科学技術の領域で中国が存在感を高めていることがうかがえる。8月に公表した「科学技術指標2022」では、注目度の高い論文数である「トップ10%補正論文数」に加えて「トップ1%補正論文数」でも中国が首位に立った。トップ1%補正論文数で米国を抜き去ったことの意味は大きい。日本が順位を下げているのと対照的といえよう。

 こういった状況から浮かび上がるのは、かつてのような“教え子”の立場から脱却して日本と対等、あるいは分野によっては“教師”のような立ち位置に変わりつつある中国の姿だ。コンピューターサイエンスのように中国が米国と競いつつ、成果を積み上げている分野もある。そのような場合、わが国としても中国との共同研究などを通じ、優れた知見を吸収する取り組みが今後、欠かせなくなってくるだろう。

 もちろん経済安全保障の観点から、注意を払う必要はある。だが国際共同研究の流れが広がるなか、中国が無視できない存在になりつつあると認めざるを得ない。“シロ”か“クロ”かの二元論に陥ることなく、現実的な解を探るべきではなかろうか。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る