インクジェット(IJ)技術の裾野が広がっている。紙やラベル、パッケージのほかにテキスタイルなどでIJの採用が増えている。多品種小ロット対応や環境対応に強みを持つためだ。材料の無駄が少なくてすむ利点から、エレクトロニクス分野でも活用が進み、各種インクやIJヘッド・装置に強みを持つ日本企業の商機が広がっている。

 IJ技術は環境に優しい。トナーを熱で定着させるレーザープリンターに対し、IJプリンターは熱がかからないので省電力につながる。テキスタイル分野でいえば、従来の捺染作業は工程が長く廃液も多い。IJは版が不要で工程が短く、廃液も少ない。少量多品種を短納期で仕上げられるため需要に応じた生産が可能。アパレル業界で、たびたび議論に上る売れ残り商品の廃棄問題も解決できる。

 エレクトロニクス分野でも2社の日本企業が世界を牽引しようとしている。1社はエッチング工程を不要とするフレキシブルプリント基板(FPC)生産技術を確立したエレファンテック。シンプルな工程プロセスで使用するエネルギーや水、廃棄物は従来の10分の1以下になる。

 同社は2024年ごろから装置販売も始める予定。約2兆円のFPC市場で「30年までに1割を既存製法から置き換える」(清水信哉社長)と志は高い。素材・装置各社と戦略的提携を結んでおり、三井化学の量産ノウハウやセイコーエプソンのIJヘッド技術などを生かしていく。

 もう1社は、塗布法の有機ELパネルを世界で唯一事業化するJOLED。パナソニックとソニーの有機ELパネル事業を統合して設立されたメーカーだ。住友化学も出資しており、オールジャパンで装置と材料を支援する。すでに中型サイズの量産を始めており、現在は大型パネルの事業化に向けて中国CSOTと開発を進めている。

 このように日本が装置と材料に強みを持つ分野として半導体産業がある。シリコンウエハーやフォトレジストといった材料は、日系メーカーが高いシェアを握っており、装置も20年の売上高上位15社のうち、日本企業が7社を占めている。

 ディスプレイパネルや半導体の生産で海外勢に主導権を奪われた日本。これらの市場は膨大な設備投資が必要であり、これから巻き返すのは至難の業といえる。エレファンテック、JOLEDが取り組むのは「IJを活用した製造技術を売る」戦略。設備負担を抑え、製造技術のパッケージ売りによってグローバル展開を目指す姿は、これから日本のメーカーが進むべき道を示してくれるはずだ。

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