新型コロナウイルスの感染拡大が、国内外の食品サプライチェーンに深刻な影響を及ぼしつつあるなか、厳格な運用で知られる原料などの食品表示が、弾力的な運用へと舵が切られた。原料原産国や栄養成分量の表示事項と実際に使用される原材料とが異なっていたとしても、ウェブサイト、店舗での告知などにより情報が適切に消費者に伝えられれば、差し支えないとする取り組みである。管轄する消費者庁では、4月10日付で都道府県、保健所設置市などの食品表示を担当する部署宛に通知を行った。しかし考えてみると今回の対応策は、薄利多売とされる食品業者に、コスト負担をかけず、効率的に消費者へ事実を伝えるモデルになるかも知れない。その検証ともなろう。
 今回の取り組みは、消費者の需要に見合った食品の生産体制を確保し、円滑な流通を可能とすることが根底にあり、法律に基づく食品表示基準の運用を弾力的に行うことが狙いだ。表記と異なっても取り締まらないのは、サプライチェーンが機能せず、やむを得ず原材料、食品添加物の切り替えや製造所を変更する場合が対象となる。健康被害を防止することが重要な、アレルギー表示や消費期限、要加熱要など内閣府令に定めるものは現行通り、容器包装への表示厳守とされる。また米穀取引での産地情報などの伝達に関わる米トレーサビリティ法や製造所固有記号の表示も、弾力的な運用が実施された。ただ今回の運用を利用し消費者を騙す悪質な手口が発生する可能性はある。消費者庁と都道府県には、しっかりと監視の目が求められるのは当然である。
 新型コロナウイルス感染症の影響で輸入野菜などの原材料の供給が細り、注目されるのが国産品である。しかし春作業の繁忙期に海外からの農業技能実習生の確保ができず、人手不足となっている。輸入農畜産物から国産品へと切り替え、サプライチェーンを再構築するためには野菜のカット、冷凍、安定出荷を行う施設整備も必要である。そこで農林水産省では、2020年補正予算案に農業経験者の協力支援や農業高校学生といった将来の担い手の育成を含めた対策費に46億円、労働力不足の解消に向けたスマート農業実証加速に10億円、サプライチェーン再構築体制整備に対策費143億円などの支援費用を盛り込んでいる。
 不安が広がる新型コロナ感染症だが、前年度より落ち込んだ食料自給率のカロリーベース37%からの引き上げの転機になるのではないか。新たな挑戦と捉え、対策費から最大効果が得られることに期待したい。

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