ウィズコロナの時代に、化学企業の経営戦略はどこへ向かうのか。外部環境としてのコロナの脅威は、市況や競合、規制など従来要因を上回る影響を企業活動に与えている。事態の長期化、深刻化で、文字通りの生存戦略に集中せざるを得ない状況となる恐れもある。一方、停滞時に次世代の製品開発などの仕込みに力を注ぎ、経済回復時に飛躍を期す企業も多い。
 この場合に検討されるのはメガトレンドの行方であり、車載を含めたエレクトロニクス、ヘルスケアなどが代表的ドメインとしてみられているようだ。そこにアクセスできる企業にしても、収束するのか、ウィズコロナが続くのか、判然としない状況で展望を描くことは難しい。もっとも「需要の旺盛な成長市場で差別化製品によって勝ち抜く」という大原則が大きく変わることはないだろう。
 一方、企業活動のすべてを貫く経営理念に社会貢献を掲げる化学会社は多い。「人々の生活向上に寄与する」「社会発展に貢献する」などの文言がみられる。しかしコロナを経験し、自社の活動を通じた社会貢献とは具体的に何を指すのか、人々の生活向上とは、どういった状態を指すのか、再考の時期にきている。利便性の追求と環境破壊、経済発展と地域文化の消滅など、以前からのトレードオフの課題に大きな変数が加わり、解釈はより難解になった。
 これまでの組織、人材、マーケティング、研究開発などの経営戦略は、利益至上主義が大前提であることは否めない。もちろん利益度外視で理念の追求に経営資源を注ぐことは、企業の正しい姿勢とはいえない。
 だがコロナを機に、個社が真の意味で社会貢献を再定義し、そのうえで利益を上げるマーケティングなどの戦略を活用する-というかたちに順序の転換が加速すると期待したい。とくに、これから世に送り出す製品には「良心」や「倫理」といったチェック項目が底流にあることが望ましい。理念の実現を目指して開発した素材は、そのストーリーによって十分な商機を享受できる可能性も出てこよう。
 コロナ以前、みずほ証券の山田幹也エクイティ調査部シニアアナリストに「化学企業は環境問題などの世界的課題にどう向き合うべきか」を問うたことがある。山田氏の答えは「幸福の総和」であった。この定義の解釈も一様でないが、現在の状況にも通じる重要な指標だ。企業は、したたかに生き残らなければならない。だがポストコロナの化学産業は「自社の社会的意義を常に問い続けることが経営活動の一角を占めている」-。そんな世界であってほしい。記事・取材テーマに対するご意見はこちら

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