今月初、経済産業省が国内で発売される新車について、2030年代半ばにもガソリン車をやめ、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)、水素燃料電池車(FCV)へ全面的に切り替えるべく調整していくとのニュースが流れた。中国や欧米の一部などのガソリン車販売を禁止・規制の動きを背景に、自動車生産大国である日本も世界的な流れに遅れを取るまいと表明した格好だ。

 中部東海経済圏の自動車産業にかかわる各社は「(表明は)時間の問題だった」(名古屋市の化学品専門商社)、「政府が明確な目標時期を出したことで研究開発や事業シフトを、より強化できる」(岐阜県の自動車関連の樹脂部品会社)などと、すでに織り込みずみの様子。ガソリン車からのシフトが早まる「覚悟」が固まったという見方が大勢を占めている。

 10月末から11月中旬にかけ、名古屋証券取引所で自動車各社の4~9月期決算の会見が行われた。トヨタグループ各社の副社長や幹部クラスからは「CASEやコネクテッドカー、環境対応にかかわる事業シフトと研究開発スピードは、より拡大、より加速する必要がある」とのコメントが多く挙がった。政府の発表以前から、グループ各社が着々と準備に入っていたことは間違いないだろう。

 今秋、名古屋商工会議所で山本亜士会頭(名古屋鉄道代表取締役会長)による愛知県内の経済概況説明の会見が開かれた。ちょうど「中国が30年代半ばにガソリン車を禁止する」との報道が世界に流れた翌日だったこともあり、一部記者から「ガソリン車禁止の世界的な流れに、いかに対応するのか」との質問も飛んだ。山本会頭は「中国とか米国の動きの前から中部地域の自動車や関連各社は、想定した事業や開発を営々と続けている」と強調、決して世界に遅れていないことを示した。

 政府方針の表明に歩調を合わせるかのように今月9日、トヨタ自動車はFCV(燃料電池自動車)の第2世代「MIRAI」を世界同時発表した。第1世代よりもドライブフィーリングや質感を向上。ゼロエミッションではなく「マイナスエミッション」に貢献する環境先進性も大きな特徴となっている。同時に水素社会普及の後押しに向け、ミライに搭載した水素燃料電池ユニットによる発電装置を、産業界に広く適用していく方向も示した。環境車両にかかわるノウハウや技術蓄積を武器に、自動車産業のモデル変革に走り始めた中部東海地域。脱炭素社会の本命となる水素の社会実装も含め、同地域は未来へのアクセルを一段踏み込んだと言えそうだ。

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