化学企業は、新型コロナウイルスのパンデミックと対峙したこの数カ月間において、自らを見つめ直す機会を得た。自社の事業やワークフローが抱える、さまざまな課題、あるいは世の中で進む新たな変化を改めて認識したことだろう。その一方で「これまでに掲げてきた基本的な戦略や進むべき方向は不変である」と、どの経営者も口を揃えている。課題と同時に、自らの強みや役割を再確認したようだ。今後、短期的には予想される収益変動への対応が必要になってくるだろう。しかし、そこに立ち止まることなく、進むべき道を力強く前進することを期待したい。

 化学産業は、その誕生以来、社会が抱える課題を解決し、あるいは社会を次の次元に導く新たな価値を生み出しながら、人類の最先端のニーズに応えてきた。また先進国のなかで、ドイツと並んで製造業の国内総生産(GDP)に占める割合が高い日本で、化学産業は近年、付加価値額、技術開発、雇用など、さまざまな面において、他の製造業に対し、その存在感を高めてきた。

 半導体やディスプレイなどの電気・情報通信分野や自動車材料などの工業用材料、機能性繊維、膜材料といった高機能材料分野で、日本の化学企業は世界最先端の技術力と高い市場シェアを持っている。日本企業が生産する先端材料がなければ成り立たない分野・製品も数多くある。また今回の新型コロナのパンデミックによって、化学産業が人々の健康と安全に欠くことのできない重要な製品を供給する産業であることも、広く社会に認知された。

 一方で化学産業は、未知の物質、リスクのある物質をハンドリングする産業であり、その発展の過程で、さまざまな負の側面も生み出してきた。近年では海洋プラスチックごみなどが、新たな課題として世界で議論されるようになった。

 また日本について「資源に乏しい」「少子高齢化が進んでいる」「先進国のなかで労働生産性が低い」「情報通信革命で世界に後れをとっている」など、国そのものの競争力が低下しているとの指摘も絶えない。

 しかし長い歴史のなかで、さまざまな課題や困難、ハンディキャップに直面し、これを克服してきた化学産業は、自ら課題を乗り越え成長する力をつけてきた。また化学の力で社会課題の解決に貢献し、社会の発展に寄与するという使命感を、さらに強めている。不変の役割を再認識した化学企業には、人類・社会を、より良い世界、より明るい未来に導く新たな価値を創造すべく邁進してほしい。

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