新型コロナウイルスの影響は各業界に及んでいるが、海外市場を主戦場とするプラントエンジニアリングも例外ではない。ただ複数の国にまたがって仕事をするために、その評価は難しい。プロジェクト実施国の外出規制などは容易に把握できるものの、世界中に及ぶ資機材の調達については、個々のベンダーの操業状況を把握しなくてはならず、しかも状況は刻々変わっている。日系エンジニアリング大手は北米の大型プロジェクトで“高い授業料”を払わされたが、その教訓から高めた危機管理能力が、今回の事態にどう発揮されるのか注目される。
 現在、日系エンジニアリング企業が受注している北米のエチレンやLNG、インドの肥料プラントなどの案件で建設作業に遅れが生じている。また資機材のサプライチェーンへの影響は予測し難い。調達網は世界中に及んでおり、ベンダーの生産拠点が置かれている国の急速な状況悪化もあり得る。プラントの納期遅れはフォースマジュール宣言により責任を免れるとのことだが、どこまでコロナの影響と認められるのか、作業員の人件費は負担するのか、顧客と厳密に詰めなくてはならない。
 遂行中のプロジェクトについて、できる限り納期を守り、リスクを避ける努力が必要だが、コロナ終息後に、それ以前と同様の受注環境に戻るとは必ずしも言えない。コロナの影響が長引き、世界の景気、消費の低迷が続けば、不必要な消費を控える生活様式が定着することが予想できる。その場合、石油・ガスを原料とするエネルギーや石油化学プラントへの投資は抑制されるだろう。
 エンジニアリング各社は、炭化水素系プロジェクトの比率を減らし、再生可能エネルギーやインフラなどの分野を強化する方針を掲げていたが、今回のコロナの流行は、こうした取り組みを一層加速させることになりそうだ。LNGはCO2排出が少ないことから今後も需要は伸びるだろうが、そのペースは見直しが必要かもしれない。
 日本のエンジニアリング各社は、LNGや大型化学プラントでは一定の競争力を維持していたが、これに代わる技術ではどうか。CCU(CO2回収・利用)などのCO2削減技術、水素の製造・貯蔵・輸送・利用技術、デジタル技術を活用したプラントの保守・操業技術など期待の分野はあるが、まだ実用段階ではない。コロナ後は見える風景が大きく変わっているかもしれない。事業環境の変化にたじろがないためにも事業ポートフォリオの変革を加速し、地球環境の保全に貢献する新たな収益源を育てることが重要だ。

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