国際海運分野における気候変動問題への対応が重要課題となるなかで、日本が温室効果ガス(GHG)を排出しないゼロエミッション船を早期に実用化する姿勢を鮮明にしている。国土交通省はこのほど、国際ルールの整備や技術開発・実証の推進などへの取り組みを示したロードマップを策定した。世界に先駆けて2028年までの商業運航を目指す。

 産業革命前に比べ平均気温上昇を1・5度C以内に抑制することなどを目指す「パリ協定」が16年に発効し、世界的に脱炭素化の機運が一段と高まっている。こうしたなかで国際海事機関(IMO)は、18年4月に国際海運における「GHG削減戦略」を策定した。50年までにGHGの総排出量を08年比で50%削減し、最終的には今世紀中の可能な限り早い段階で排出ゼロを目指す目標を掲げた。この戦略に基づき、23年までの合意を目指した短期対策などの交渉が行われているという。

 国際海運分野では、かねてから船舶のエネルギー効率設計指標(EEDI)を導入し、段階的に規制値を強化するなど船舶から排出されるGHGの削減に取り組んできた。しかし50年以降の目標達成は容易ではなく、燃料を全面的に転換するなど抜本的取り組みが不可欠となる。

 日本では国交省や海運、造船をはじめ各海事産業界、研究機関、公的機関など産学官公の海事関係者らで構成する「国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト」を発足。将来の船が目指すべき方向性や、その実現の方策を議論してきた。その集大成として、今世紀中の排出ゼロへのシナリオおよび、その実現に向けた今後の作業計画を示すとともに、日本の海事産業が世界に先駆けて目指す具体的なゼロエミッション船のコンセプトを取りまとめた「国際海運のゼロエミッションへ向けたロードマップ」を策定した。

 そのなかで50年の目標達成に向けては08年比で90~100%の効率改善を達成する船舶を投入する時期を28~30年とした。ゼロエミッションの将来イメージとしては水素燃料船、アンモニア燃料船、船上CO2(二酸化炭素)回収システム搭載船、低速LNG(液化天然ガス)燃料船を挙げている。

 今後、GHG削減シナリオの見直しやロードマップに掲げた対策の絞り込みとともに、ゼロエミッション船の普及へ向けた方策、役割、体制、資金面の仕組みなどについて掘り下げる必要もある。世界有数の海運・造船大国の日本は、変化をチャンスと捉え、国際海運における環境対策で世界をリードする役割が求められている。

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