新型コロナウイルスのワクチンの接種が英国や米国で始まった。社会・経済活動を正常化に近づける切り札として期待は大きい。英米が承認や緊急使用許可を出したことで、日本も海外承認を参照して承認する特例的対応が可能になり、2021春頃の接種開始が見込まれる。

 ただし、ここで気を緩められない。一般的にワクチン開発にかかる期間は最低5年以上。健康な多くの人が接種するため、有効性とともに安全性を入念に確かめるため、それだけの時間を要する。1年足らずで実用化されたワクチンには未知のリスクが潜む可能性もある。もう一段、細心の注意を払わなければならない。

 接種が始まった米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したコロナワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)を投与してウイルスの遺伝子情報を体内に届けて抗体を作らせる。約4万4000人を対象に実施した臨床試験で示された有効率は95%と高かった。同じmRNA技術を用い、今週にも米国で使用許可が見込まれる米モデルナのワクチンの有効率も94・5%に達する。

 これらのワクチンでおおむね確認されている有効性は、発症と重症化を予防できること。発症の予防は、感染しても発症しない可能性を指し、感染しないということではない。新型コロナは無症状感染者が多く、ワクチンの感染予防効果を臨床試験で証明するのは、ほぼ不可能と言われている。

 安全面では、それぞれ注射部位の痛み、倦怠感、筋肉痛などの軽微な副反応が確認されている。先行して接種が始まった英国でアレルギー反応の有害事象が2例報告されたが、この副反応も含めて審議した米国は緊急使用許可を出した。また15歳以下や妊婦などにの治験データは少なく、追加の臨床試験の結果を待つ必要がある。

 ワクチン接種が始まったことで、今後は集団免疫を得られるかどうかにも注目が集まる。接種していない人にも予防効果が及ぶ集団免疫は、ワクチンの感染・発症予防効果に加えて接種率の高さが決め手になる。インフルエンザワクチンは集団免疫を実証できていない。コロナワクチンでは、どうだろうか。

 ワクチンが普及するには国や自治体、専門家、メディアをはじめとする多くの関係者が、有用性のみならず、接種によるネガティブな側面を含め科学的に正しい情報を国民に丁寧に発信する「リスクコミュニケーション」が重要になるだろう。そして国民一人ひとりの判断も未曾有の感染症危機を乗り越えられるかを左右する。

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