米国との対立激化や新型コロナウイルスの蔓延の長期化を視野に、中国が輸出主導から内需重視の経済モデルの転換に大きく舵を切ろうとしている。

 中国共産党が先ごろ、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)が採択した第14次5カ年計画案と2035年までの長期目標の草案を公表した。科学技術の自立を謳い、半導体や人工知能(AI)など先端分野の研究に国を挙げて取り組む。

 化学を含め、今後打ち出される各産業の中長期方針にも注意が必要となる。35年までの長期目標では1人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国の水準に引き上げるとし、1人当たりの収入あるいはGDPを倍増させる方針を打ち出した。中間所得層を拡大し、個人消費を成長エンジンにする考えだろう。

 党は、米国との摩擦を念頭に「複雑に入り組んだ国際環境を認識し、最悪の事態も想定しながら果敢に挑戦していく必要がある」と強調している。5カ年計画でも、内需拡大戦略の実施と供給側構造改革を深化させる必要性を書き込んだ。コロナ感染拡大による世界経済の悪化を想定し、消費を全面的に促進し投資を拡大する構えだ。

 国内経済の成長の牽引役と位置づけたのが科学技術によるイノベーションだ。コア技術に重点を置き、サプライチェーンの欠点を補い、情報技術(IT)や新素材、新エネルギー車(NEV)など次世代産業の発展に心血を注ぐ。第5世代通信(5G)やビッグデータなどの新たなインフラ建設も加速する。

 NEVの分野では、すでに25年までに新車販売の割合を20%前後に引き上げる目標を発表している。35年にはNEVの割合を50%以上、残りをハイブリッド車(HV)にするといった野心的な目標も打ち出した。

 先端技術研究を担う人材の育生にも余念がない。AIや量子技術、バイオサイエンス、IC分野などコア技術のブレークスルーを重大プロジェクトと位置づけ、国家級の実験室を設置することで国内外の優秀な人材の確保を目指す。

 輸出主導で成長してきた中国だが、人件費の上昇、米国との関係悪化などを背景に、輸出依存の経済発展が困難になりつつある。共産党は、科学技術を外国に依存せず自らの力で生み出すとしており、高機能部品の内製化を急ぐ構えだ。

 今後示される各種産業の成長戦略でも、こうした方針転換に呼応した動きがみられるはず。部品調達から販売までを国内で完結する新たな経済循環の確立は容易なことではない。中国でビジネスを行う日系企業にも多くの商機があるはずだ。

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