化学企業の事業ポートフォリオの再編が進んでいる。日本の化学企業のM&Aとして過去最高の約9600億円を投じ、2020年に日立化成(現昭和電工マテリアルズ)を買収した昭和電工は、今年7月末までに飲料用アルミ缶や鉛蓄電池など7事業の売却を決定。JSRも5月、祖業の合成ゴムなどエラストマー事業をENEOSに売却すると公表した。

 日本企業は事業の切り出しに消極的とされてきた。経済産業省が20年7月に公表した「事業再編実務指針」では、デジタル革命、グローバル化の進展などで経営環境が急激に変化するなかで持続的成長を実現するには「経営資源をコア事業の強化、将来への成長投資に集中させる必要がある」と指摘。低採算部門の整理だけでなく「収益性の高い事業も自社の下で成長戦略の実現が難しい場合、早期に切り出す」べきと提言した。

 昭和電工は半導体材料や自動車部材、再生医療などを、JSRも半導体材料や再生医療などを成長ドライバーと位置づける。両社の事例は、財務体質改善や成長事業に資金を振り向けやすくする「攻めの事業再編」といえる。

 最近の事業再編で目立つのがファンドの存在だ。昭和電工が売却を決めた先は実に5事業が国内外のファンド。国内では資生堂がヘアケア商品「TSUBAKI」を含む日用品事業、武田薬品工業がビタミン剤「アリナミン」などの大衆薬事業を海外ファンドに売却した。

 「ここ数年で、閉塞的な雰囲気がだいぶ変わってきている」。日本企業の事業切り出しに携わった経験のある国内ファンドの幹部は、企業側のマインド変化を感じ取る。かつては買収後に切り売りする「ハゲタカ」の印象を持たれ門前払いも多かったそう。コロナ禍という未曾有の事態も企業の思い切った決断を後押ししているようだ。

 こうした日本市場の変化に海外ファンドも着目する。海外に比べ事業ポートフォリオ再編が遅れている日本は「ブルーオーシャン」(未開拓の市場)に映る。一方、日本の化学大手の幹部は「ファンドは買収後に業界再編や上場を目指す。買収された事業や企業にとって、決して不幸な話ではない」と語るなど、心理的な抵抗感はない様子だ。

 自社の戦略に照らして事業を切り出し、その事業を欲しがる企業やファンドが買収する。切り出された事業も新たなスポンサーが付くことで投資が可能になる。それが結果として事業の成長や雇用維持につながる。事業の組み替えによって社会や経済の活性化が促される好循環が日本に根付くことを期待したい。

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