日本繊維産業連盟(繊産連)は、人権分野で社会的責任を果たすための「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を策定した。国際社会で強く求められる「責任ある企業行動」(RBC)が日本では理解が進んでおらず、本格的に取り組む企業が限られる現状を打破するべく、国際労働機関(ILO)駐日事務所の協力を得て設けた。

 ガイドラインは、RBCのなかで注目度が高い人権問題、とくに労働問題に焦点を当てて、企業行動の意義・必要性を整理した。そして労働者の人権に関する個別の課題や児童労働といった問題まで踏み込んだうえで、人権リスクの回避などサプライチェーン上で企業が対応すべきこと(人権デューデリジェンス)を、その手続きも含めて解説している。この種の従来のガイドラインは、サプライチェーンを管理する発注者の立場から作成されていたが今回、日本の繊維工業の特徴を踏まえ、受注者としてサプライチェーンの末端に位置する中小・小規模の経営者に軸足を置いたものとなっている。

 策定の前提には、日本の産業界でクローズアップされている外国人技能実習制度の問題がある。繊維産業に限った話ではないが、労働時間や安全確保、業務内容の面で守るべきものが守られず、技能実習生の失踪につながるケースが起きている。

 合繊・紡績メーカーをはじめとした大企業、上場企業では、市場からもコンプライアンスの順守が求められ、対応策をとっている企業がほとんどのはず。しかし中小・小規模企業では労務管理まで手が回っていないケースも多いだろう。悪意はなくても「問題に着手するきっかけがない」「何から手を付けていいかわからない」といった消極的な理由で、なおざりにしているケースも多くあるのではないか。ガイドラインでは、確認するべき事項を課題ごと挙げたチェックリストを用意しており、中小・小規模企業にも実態を把握しやすくしており大いに評価したい。

 ガイドラインの内容は国際的指標をベースとし一部、日本の法律を超える内容も含まれる。労働者の人権への配慮は、国内繊維産業が海外企業と取引を進める際にも求められるもの。さらに人権対策の強化は不可逆的であり、世界的に厳しさを増すばかり。繊産連は、相談窓口として社労士団体の協力を得るための話し合いも進めている。日本の繊維産業が世界から信頼され続けるために、また技能実習生から「優れた技能を身につけられる国」として希望を持ち続けてもらうために、あらゆる関連企業にガイドラインの順守を求めたい。

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