毎年のことだが、新入社員に向けた社長からのあいさつをみると「挑戦」という言葉がよく目につく。新入社員に期待することは「主体性」や「行動力」など、昔から挑戦に近い言葉が並び、いつの時代も変わらない。ただ企業自体が果敢にポートフォリオ改革に取り組む昨今は、挑戦の重みが増しているように思える。挑戦は新入社員だけに求められているわけではない。あいさつの内容は社員全員に向けたものでもあり、現状維持に危機感を募らせるトップのメッセージである。

 祖業のエラストマーをENEOSに譲渡するという大きな決断を下したJSR。川橋信夫社長兼COOは「挑戦と自律性」そして「自ら変化できるかどうか」を期待する事柄に挙げた。また世の中が変化するなかで「それに対して自分を変えていける人、アップデートできる人が必要になる」とエールを送った。

 今年度から新たな4つの事業ポートフォリオを設定した三井化学。橋本修社長は「挑戦による学び(成功・失敗)は競争力の源泉」と話し「仕事での答えは一つではない、だからこそ誰でも失敗する。失敗してもいい」と挑む重要性を説いた。大きく組織を変革した三菱ケミカルホールディングスのジョンマーク・ギルソンCEOも「相手に忖度せずチャレンジしよう」と伝えた。

 程度の差こそあれ、各社のトップは社員全員に挑戦を求めているに違いない。若いうちの失敗が糧になる新入社員に対し、中堅社員や管理職、経営トップと、責任が重くなるにつれて失敗は許されなくなる。ただ現状に満足せず、業務の改善や新たな提案など挑戦し続ける姿勢は、変化が激しく不透明な時代だからこそ、皆が持つべきだろう。重要案件であれば、周囲を巻き込んで慎重に議論を重ねればいい。必要なのは開拓する力であり、第一歩を踏み出すチャンレジ精神だ。

 オンラインという世界で学生時代を過ごしてきた新入社員の発想や考え方は、企業に新しい風を吹き込むはずだ。その風をしっかりと取り込むことができるかどうか。社員が主体的に動き、挑戦し続けるには、挑戦しやすい社内風土が大前提である。コロナ下の新入社員は社内風土を掴みにくいため、今まで以上に声掛けし、意見や考えを引き出す必要もあるだろう。

 さてコロナ下の働き方が身に染みついてきた先輩社員の方である。刺激の少ない在宅勤務に慣れるのではなく、積極的に新入社員に声をかけ、コミュニケーションを図ってはどうだろうか。他を助け、刺激を受けることで新たな火がともるはずである。

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