新型コロナウイルス感染拡大の影響から外出自粛が求められ、運動不足、不安感やストレスを抱える生活者が増えている。そのなか栄養・食生活改善に目を向けて健康増進に貢献しようと、医食同源生薬研究財団が今春発足した。研究助成に加え、長期ヒト試験を通じて常食の健康効果を実証、社会実装し、生活習慣病の予防、公的医療費の削減につながる流れを産学官連携して構築していくのが狙い。

 希少でコストのかかる天然成分を配合した高付加価値型健康食品は、市中にいくらでもある。少量販売でも事業者の利益になるだろうが、広く普及しにくい。国民の大半が無理なく、安価に美味しく、いつでも摂取できる必要がある。同財団の活動を通じ、健康社会の実現に役立つ食品の開発と、情報発信の機会が増え、わが国が誰もが健康にアプローチ可能なモデル国になることを期待したい。

 医食同源は、中国の薬食同源の考え方を基に日本で生まれた造語といわれている。日本の風土にあったバランスのとれた食生活をしようという考え方である。医食同源生薬研究財団では、全粒穀物、農産物を主対象に医食同源の調査、研究、評価、講演会、啓発活動などを展開していく。

 その方向性に適合した研究対象となり得るのが、食品加工機器メーカーで米加工品も展開する東洋ライスの事例である。同社は、精米時に特殊加工技術を用いて玄米の亜糊粉層を残存させたコメや、玄米表層のロウ層を除去して亜糊粉層と糠層を残した「金芽ロウカット玄米」を開発している。ロウカット玄米には、白米に少ないγ-オリザノール、ナイアシン、ビタミンEなどが含まれる。日本の主食はコメである。未病や生活習慣病リスクの高い人は、玄米にある未知の栄養素の欠乏状態から引き起こされる可能性が考えられる。常食しやすいこの加工玄米の効用を詳細に調べ、リスク低減の検証を行う価値はある。

 健康な生活を送るには、栄養・食生活の改善だけではなく、適度な運動、快適な睡眠など併せて行う必要がある。同財団からの有用な知見が発信されても、個人は自分に合った他の要素を探して組み合わせねばならない。そこで同財団だけでなく企業、企業団体、財団、大学、研究機関によるエビデンス、健康指標、さまざまなデータを統合するプラットフォームが必要だ。人工知能(AI)などの活用・分析で導き出される個々人への包括的な健康生活アドバイスを、誰もがデジタル端末で受けられるサービスができれば、健康社会の実現につながる。国の提案・イニシアチブ・支援を求めたい。

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