ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー安全保障の重要性が再認識されるなか、ダウのジム・フィッタリングCEOの原子力発電を巡る発言が注目を集めている。3月初、ロイターが「いくつかの拠点で核の利用を検討している」と述べたと伝えた。同月末にはブルームバーグが、米国内にある2カ所の小型原子炉からの電力購入を検討しているとのコメントを報道している。化学産業にとって電力の安定調達は、これまで以上に重要な課題となっている。日本政府は原発の将来像について、あいまいな態度を続けているわけにはいかない。

 ダウを含め、石油化学産業の脱炭素化に向けて国際的な化学企業はナフサクラッカーの電熱化に取り組んでいる。使用する電力は大幅に増え、大量に、しかも手頃な価格で調達できるかが実現への大きな課題の一つとなっている。同時に脱炭素化も進めなければならない。再生可能エネルギーの利用促進だけでは十分ではない、とする認識が原発利用を進めるフィッタリング氏の発言の背景にある。

 昨年10月に閣議決定された日本の第6エネルギー基本計画では、原子力を「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」としながらも、「使用済燃料対策、核燃料サイクル、最終処分、廃炉など、さまざまな課題が存在しており、こうした課題への対応が必要である」とするばかりで、将来的な利用にとって不可欠なリプレース(建て替え)の議論を避けた。

 こうしたなかで先月16日に起きた東北地方の地震で火力発電所が稼働を停止。首都圏は全域停電の危機に直面し、政府が21日に東京電力管内の1都8県に「電力需給ひっ迫警報」を発令する事態となった。翌日、経団連の十倉雅和会長は、定例会見で「カーボンニュートラルに向けて温室効果ガス削減の取り組みが進むなか、安全性が担保され地元住民の理解が得られた原子力発電所については、速やかに再稼働させる必要がある。リプレースへの取り組みも重要である」と述べ、改めて再稼働やリプレースの議論を進める必要性を訴えた。

 一方、危機管理は、ウクライナ危機が再認識を迫った、もう一つの大きな課題だ。東京電力の柏崎刈羽原子力発電所では、1年前に原子力委員会から指摘されたテロ対策の不備を、いまだに是正できていない。

 日本政府の原発に対するあいまいな態度は国民意識の反映ともいえる。技術的には、電源が何かを利用者が選択できる時代になった。態度を決めるべきは、われわれ一人ひとりかもしれない。

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