過去30年の間、日本が経験したことの一つに国際競争力の低下がある。専門機関の調査をみると日本は産業の競争力、技術力、教育水準など、さまざまな領域で競争力を徐々に、そして確実に低下させてきた。その喪失感に悩みながらも平成から令和に時代が移り、オリンピックを開催しようとしていた。その矢先、われわれは今回のコロナ禍に直面した。世界が停滞するこの困難な時期をどうとらえるべきか。いま日本人は、この困難がチャンスになり得ると考え始めている。

 スイスのビジネススクールIMDが2019年に公表した世界競争力ランキングによると日本は63カ国(地域)中30位。前年から順位を5つ下げた。令和がスタートした日本人に冷や水を浴びせた格好だ。またアジアの中では中国が14位、台湾が16位だったほか、マレーシア、タイ、韓国がそれぞれ20位台にランクされている。日本はアジアの中においても、その地位を低下させている。

 日本の国際競争力が低下した理由はさまざまだが、背景の一つとして少子高齢化が指摘されよう。しかし人口規模は必ずしも国際競争力とはリンクしていない。われわれが過去30年を顧みて感じるのは、やはり世界のダイナミックな動き、社会の変化に対し、日本は反応が鈍く、過去の考えや行動様式を変えられずに過ごしてきたということだ。世界でデジタル化、キャッシュレス化が急速に進む一方、日本はいぜんとして現金主義であり、ハンコ社会である。オンライン授業などの教育のIT化も遅れている。政府が導入したマイナンバーカードも、ほとんど機能していない。

 しかしコロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の下、多くの人はいま自宅に待機している。否応なく自宅でパソコンに向き合い、ビデオ会議によるコミュニケーションの維持や、ハンコを必要としない決済の仕組み作りに取り組んでいる。大学は、学生のためにインターネットを介した授業の準備を進めており、学生もまたIT環境を整えようとしている。

 コロナ禍は非常な困難ではあるけれど、われわれはただ困難に耐え、通り過ぎるのをじっと待っているわけではない。不自由な環境を快適な環境に変えるには、どうしたら良いのか。そう考え、実行しつつある。腰の重い日本人がコロナ禍で背中を押され、具体的に実行することで、さまざまなことに気付き始めている。困難の後に訪れるのは、以前とは別の世界に違いない。この時期を次の時代に適合するための機会ととらえ、日本全体を変容させていきたい。

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