次代を担う子どもたちに理科の楽しさや化学の仕事に興味を持ってもらおうと、コロナ下にあっても独自の情報発信に取り組む企業は多く、その意欲が高まっている。とくに興味深いのが、生活に身近な製品を扱うメーカー各社の仕掛け作りだ。子どもたちへの訴求力が高い動画投稿サイト「ユーチューブ」の活用や人気漫画とのコラボレーションなど。先の見えない状況が続くなか、社会の変化に対応する姿勢を評価したい。

 いまや小学生が大人になったら就きたい職業ランキングで上位に入るユーチューバーだが、活躍するのは若者に限らない。コンタクトレンズ大手のシードは昨年、社員による子ども向けの理科実験教室をユーチューブで始めた。コロナ禍で対面での開催が難しくなるなか「企画から脚本、撮影、編集まで社員が話し合い、すべて手作りで制作している」と担当者は話す。

 これまでに吸水性ポリマーを使った「水でふくらむ不思議なプラスチック」や、保湿成分のリピジュアなどを加えた「ぷるぷるせっけんをつくってみよう」など7本を公開した。動画の最後に入れた撮影の裏側やNGシーンなどの「おまけ」も好評という。

 人間の体のなかを舞台に、生命活動をつかさどる赤血球や血小板といった細胞を擬人化して描く人気の漫画・アニメ「はたらく細胞」とコラボしたのは、ミドリムシ配合の食品を展開するユーグレナ。小冊子や電子コミックアプリ「LINEマンガ」などを通じて、ミドリムシに含まれる59種類の栄養素で免疫細胞たちが活力を取り戻す科学的エビデンスを分かりやすく伝えている。

 すべての問題と例文に「うんこ」という言葉を使って話題となった学習教材「うんこドリル」のキャラクター「うんこ先生」を活用し、YKK APは窓やドアなどの安全な使い方を楽しく学べるオンラインゲームを制作した。難解だと敬遠されがちなことでも、子どもたちの目線に立って興味を向けてもらうことのできた好例といえよう。

 在宅学習の広がりや多くの学校行事の中止にみられるように、新型コロナウイルスは子どもたちの生活も大きく変えた。流行から1年半が過ぎて、子どもたちの感性や好奇心を刺激する知恵や工夫は、これまで以上に問われるだろう。もうすぐコロナ下で迎える2回目の夏休み。自宅で楽しめるサイエンスショーなどのライブ配信が今年も目白押しだ。日本のリーディングインダストリーとして、化学産業には素材のみならず、未来を切り開く子どもたちの学ぶ姿勢を育むイノベーションにも果敢に挑んでほしい。

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