日本の総合大手化学の株価が冴えない。10月末以降、世界的な株価上昇とともに化学企業の株も値上がりしているが、総合大手の上昇率は日経平均の上昇率を下回っている。社会課題を解決する先端技術を有する化学企業が投資家に支持されない現状は、極めて残念だと言わざるを得ない。化学企業は、新興テック企業などに資金が集中する現状を打破し、自らの正しい価値を市場に発信していく努力が必要だ。

 日本の化学企業に対する市場の評価は、実は大きく2極化している。時価総額を売上高で割った株価売上高倍率(PSR)でみると、信越化学工業や日産化学などが4倍以上と、米GAFA並みの高水準に達している一方で、総合大手のPSRは1倍以下。海外でも化学企業のPSRはテック企業などと比べて低く、米ダウケミカルや独BASFでも1倍前後にとどまる。しかし日本の総合大手はさらに低水準で、0・5倍にも到達しないケースがある。

 PSRは、赤字や債務超過の企業でも使えるため、スタートアップなどの新興企業の株価水準を比較する指標として使われることが多い。一方で、同種の業界内であれば、企業の規模にかかわらず市場が判断する企業の価値を比較できる指標ともいえる。同じ化学セクターの企業ながら、なぜ、これほどの差が生まれるのだろうか。

 日本の総合化学企業は、情報電子、ヘルスケア、工業材料、家庭用品など複数のターゲット領域で多角的な経営を展開している。そうした経営スタイルでは、それぞれの領域を単独で経営している企業と比べて市場からの評価が低下し「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる株価の低下を招くことが多い。総合化学の経営者は、多角的な経営によって各種のシナジーを発現できるほか、個別の事業が補完し合うことで経営の安定化が可能であると主張しているが、市場に十分理解されているとは言いがたい。

 しかし問題はターゲット市場の数ではなく、化学企業の保有する技術の価値が過小評価されていることにある。技術力、イノベーション力で勝負するのが化学企業であり、本物のテクノロジー、他社に真似のできない技術を保有する企業にこそ真の価値がある。

 市場において、既存技術の組み合わせによってビジネス提案を行う新興企業の評価が高く、他社が追随できない先端技術を保有する日本の総合化学企業の評価が低いのは、ある意味で異常事態といえる。市場に対し自らの価値を正しく発信する戦略が必要といえよう。

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