昨年は東南アジアでも1日として関連報道を目にしない日がない程、廃プラスチック問題に関する社会的関心が高まった。しかしサプライチェーン(SC)全体でのカーボンフットプリント(温室効果ガス)削減や、それに寄与するプラスチックの機能についてはほとんど議論されていない。廃プラ問題は持続可能性にかかわる多くのテーマの一つだ。手当たり次第のプラ使用規制はむしろカーボンフットプリントを増やし、社会コストを増大させる結果を招き得る。大局的な視野で取り組みを進める必要がある。
 東南アジア都市部では今年にかけて小売店でのプラ製買い物袋の使用規制が強化された。マレーシアのクアラルンプールではローカル系コンビニエンスストアもプラ袋を1袋20セン(約5円)に有料化。タイのバンコクでは今年1月から一部小売店がプラ袋提供を完全に止めた。各種プラ製包装容器の金属や紙への素材転換を進めよとの意見もあるが、プラ容器のカーボンフットプリント削減効果は見逃されるべきではない。折しも米コカ・コーラの環境担当役員は今月、英BBCの取材に応え、プラ容器を使用し続けると言明した。ビンや金属容器への移行はカーボンフットプリントを拡大させるというのが理由だ。
 PETボトルは、軽量で飲料輸送時のCO2排出抑制に寄与し、回収網も整備されているためリサイクル率が高く省資源に貢献する。東南アジアでも同様で、例えばインドネシアはPETボトル回収率が6割に達するとの調査結果がある。ただ日本でもいえることだが、PETボトル再生のような溶融、再ペレット化によるマテリアルリサイクル(物理再生)のみを重視することは全体のカーボンフットプリント削減につながるとはいえない。PETボトルや、ポリエステル繊維を使った一部衣料品などは物理再生が適しているが、異なる種類の樹脂を使う複合材は再生コストが大きく、再生品の付加価値維持も難しい。廃プラを熱分解し化学品原料油を得るケミカルリサイクルも選択肢とすべきだ。
 サーマルリサイクル(焼却によるエネルギー回収)も、リサイクル便益の享受に必要な社会的コストが相対的に小さく、有力な手段だ。日本企業の技術は環境性が高く、エネルギー転換効率を高めれば諸外国でも事業モデルを確立できるだろう。
 廃プラ削減には生分解性樹脂の普及も期待されるが、ドイツのように民家や集合住宅にコンポストを整える必要がある。SC全体のカーボンフットプリント削減や社会インフラ整備などを含めた大局的議論が必要だ。

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