日本をはじめ世界各国が2050年のカーボンニュートラル(CN)を目指した取り組みを加速させている。実現には発電の際にCO2を排出しない再生可能エネルギーなどの電源を増やして脱炭素化を進めるとともに「電化」により、その電力を効率的に利用する必要がある。

 電化は、人々の暮らしや経済活動で必要なエネルギー源を、CO2を排出する石油、石炭、ガスなどの化石燃料から電力に置き換えるもの。資源エネルギー庁の総合エネルギー統計によると、日本の最終エネルギー消費の約67%を化石燃料が占め、電力の割合(電化率)は26%弱にとどまる。部門別電化率は民生約52%、産業約21%に対し運輸は約2%。運輸部門の電化は重要課題であり、政府は35年までに乗用車の新車販売をすべてEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、HVなどの電動車(xEV)とする方針。経済産業省のグリーン成長戦略では、今後10年でEVの普及を推進し充電インフラは30年までにガソリンスタンド並みの15万基。FCV(燃料電池車)用の水素ステーションは1000基程度整備する考え。

 欧州連合(EU)は一段踏み込み、欧州委員会が35年にガソリンや軽油を使う内燃機関(ICE)の新車販売の実質禁止を盛り込んだ新たな気候変動対策を公表した。乗用車のCO2排出規制も19年に決めた21年比37・5%の削減目標を55%に引き上げた。これによりICE車に加えてHVやPHVも事実上認められず、EVやFCVへのシフトを強力に進める構えだ。

 強力なEVシフトにより欧州で大きな電池需要が立ち上がることから「ギガファクトリー」と呼ばれるギガワット時級の大型工場が数多く計画されている。すでに拠点を持つエンビジョンAESCやLGエナジーソリューションのほか、中国のCATLやBYD、SVOLTが参入。スウェーデン・ノースボルトなどの新興や、欧州の自動車メーカーも参加する域内発の計画もある。これにより30~50年に域内の電池生産は500ギガワット時と、現在の50倍に拡大するとの予測もある。

 日本が得意とするHVやPHVの需要が今後どうなるかも気がかりだが、価格競争に陥りやすい中国に比べ、これからの欧州市場は魅力的だ。ニッケルやリチウムなどの資源確保と、さらなるコストダウン、パートナーや販売網の構築などさまざまな課題はあるだろうが、品質や性能に優れ、ポテンシャルの高い日本の電池・電池材料メーカーが欧州市場に挑戦し、活躍することを期待したい。

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