持続可能な社会の実現は私たちの共通の目標になっている。日々の生活でも気候変動などに配慮した取り組みを続ける人が増えている。企業にとっても持続可能な社会を作り上げる努力が不可欠である。そのような多彩な企業活動の共通点の一つを挙げるとすれば地道であることだろう。目標を達成するために堅実に歩む姿が目につく。
 トウゴマ農家を支援する「プラガッティ・イニシアチブ」プロジェクトは、その代表的な事例だ。アルケマ、BASF、ジャイアント・アグロ・オーガニクス(JAO)、国際非政府組織(NGO)のソリダリダートが最大の栽培地インド・グジャラート州で取り組んでいる。

 まず2016年に1000人の生産者を対象にした現状調査を実施。調査では、トウゴマ栽培は森林を破壊しないことや、食料との競合も極めて低いことなどから、今後も多くの小規模農家の生計を支えることができる半面、水資源の保護や農薬の取り扱いに関する基礎知識が貧弱であることなどが分かった。この結果を基に農家の収入や生産性、水使用の効率などを高める支援を進めてきた。

 「農家が事業の基本」との考えをベースに、農家に対するトレーニングを徹底してきた。このほど発表した4年目の成果によれば、プロジェクトに加わった農家の収穫は、19年と20年に現地の地方自治体が発表した水準に比べ50%以上増加。水の消費量も約19%減ったという。
 アルケマはトウゴマの種子から得るヒマシ油を原料として、寸法安定性や耐衝撃性などに優れるポリアミド(PA)11「Rilsan」(リルサン)を生産・供給している。自動車、電子・電気製品、3Dプリンティング、石油・ガスなどの分野で幅広い需要がある。

 新しい用途も生まれている。メガネ、コンタクトレンズ、補聴器などを販売するメガネトップ(本社・静岡市)が全国で展開する「眼鏡市場」が、樹脂フレームの素材としてリルサンを採用した。フレームに最適な強度としなやかさ、耐久性、さらに発色の良さを兼ね備えた素材を探していたところ、アルケマのサステナブル素材にたどり着いたという。
 リルサンの製造過程では、原料となる植物を育てる農家の存在が欠かせない。メガネトップは、農家の生活レベルを改善する継続的な取り組みにも賛同して使用を決定したとしており、プラガッティ・イニシアチブへの高い評価が大きな理由になっている。地道な努力が実を結んだことを讃えるとともに、同様の動きが、さらに広がることを期待したい。

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