産業機械の2019年の受注が5兆円の大台を割り込んだ。13年以来である。世界的な設備過剰感の高まりに加え、米中貿易摩擦、新興国経済の失速などが響いた。産業機械メーカーにとって“厳しい冬”だ。今後は顧客の目線に立ったソリューション提案やサブスクリプションビジネスなど、新たな事業モデルを模索してほしい。
 日本産業機械工業会によると19年の受注は総額4兆8440億円(前年比4・8%減)。内需が3兆4025億円(同3・6%増)と健闘した半面、外需は1兆4415億円(同19・2%減)と失速した。好調な内需だが、主力の製造業向けは1兆1161億円(同1・2%減)で3年連続の前年割れ。繊維、紙パルプ、化学、石油・石炭製品、窯業土石が軒並みダウン。電気機械、情報通信機械、自動車工業も低迷した。
 産業機械受注は米中両経済大国の設備投資に加え、新興国の経済発展、資源開発などを背景に5年連続で5兆円を上回っていた。しかし19年は急ブレーキがかかり、20年も新型コロナウイルスが投資に水を差す。今春に終息しても投資の回復には時間がかかる見通し。
 今後、各社では受注が年5兆円を下回ることを前提に、事業計画を立てる必要があるかもしれない。産機工の統計数字は、新設に加えて既存設備の改造、更新、アフターサービスの金額を含むが、今後さらに一歩進めてトータルソリューション全域で顧客の企業価値を高める努力が欠かせない。
 一般に産業機械は一度納入すると10~20年単位で使用する。その間、CO2削減策として燃料を変更したり、市場環境が急変したりする可能がある。また太陽光など再生可能エネルギーとの接続など、新しい取り組みや提案活動が欠かせない。
 また品質安定化や、遠隔監視による設備トラブルの抑制に向け、産業用インターネット(IIoT)の導入が進む可能性も高い。一段と多様化・高度化する顧客に対し、どれだけ新しい提案ができるか。営業マンは常に「顧客目線に立つこと」が極めて重要となる。
 このほか従来の設備投資の概念ではないが、顧客が設備を使用した期間だけ、利用料を支払うサブスクリプションビジネスが広がる可能性がある。実現すれば顧客は投資負担を大幅に軽減できる。新規ビジネスとして有望だろう。
 産業機械の受注が今後、年5兆円を回復するのか予測は難しい。しかし各社は事業環境の変化にひるむことなく、新しいビジネスを提案し、事業基盤を広げて欲しい。

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