経済産業省が「事業再編研究会」を立ち上げる。グローバル市場で生き残るために経営資源をコア事業や将来の成長事業への集中投下を可能とするため、ノンコア事業のスピンオフ・売却といった事業ポートフォリオの新陳代謝を促す環境整備を進める。日本では経営者の意識や雇用慣行との関係で組織的な慣性の力が働きやすいとの指摘もあり、経営陣、取締役会(とくに社外取締役)および投資家のレイヤーを通じてガバナンスが有効に発揮される仕組みづくりの具体的方策について検討し、実務指針をまとめる計画だ。
 昨年12月に未来投資会議が取りまとめた「新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告」では、大企業による「新たな分野への投資促進」に向けて「スピンオフを含めた事業再編促進のための環境整備」として「取締役会の監督機能の強化等の在り方について指針をとりまとめる」ことが盛り込まれた。事業再編研究会は、これを受けて設置するもの。日本企業のノンコア事業の切り出しが進みにくい背景・要因を明らかにしたうえで、経営陣における適切なインセンティブ、取締役会による監督機能の発揮、投資家とのエンゲージメントへの対応、事業評価の仕組みの構築と開示などのあり方について検討する。
 きょう31日に初会合を開く。検討結果は5月末をめどに報告書として取りまとめ、6月末に経産省として実務指針を策定・公表する予定。経済界からは小林喜光三菱ケミカルホールディングス取締役会長をはじめ片山栄一パナソニック執行役員CSO、河村芳彦日立製作所執行役専務CSO、日戸興史オムロン取締役執行役員専務CFOらが議論に参画する。
 新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告によると、日本企業の1社当たり事業部門数は1990年代以降横ばいで推移しており、スピンオフを活用した分離件数は2010年から18年の間で米国が273件あるのに対して日本での実績ゼロ。また大企業のスタートアップ買収件数も米国・欧州・中国より低調。欧米ではIT業界に限らずヘルスケア、広告、金融サービス、商業など広範囲の業界に及ぶが、日本では業界を問わず少ないと報告されている。
 一方で国内でも、自動車産業でトヨタ自動車をはじめとしてグループ・系列企業の事業再構築が本格化しているほか、化学業界でも昭和電工による日立化成買収が動き出した。世界的に進展する産業構造の変化に対応するためには、強みの見極め、およびそれをベースとした成長戦略と、既成概念に囚われない攻めの経営が求められる。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る