現場に導入が期待される新技術や新品種として、農林水産省が「最新農業技術・品種2020」をまとめた。新技術21件、新品種6件が挙げられた。全国研究機関の研究成果から選ばれており、農業生産の経営改善に活用してもらうのが狙いだ。ただ、いくら優れた技術や栽培方法でも、すぐ現場に導入するには「安価で簡単に使いこなせること」「良い技術指導・説明ができる人材がいること」、そして「農業生産者のチャレンジ精神」が必要である。たまたま条件が揃って成功したという事例ばかりでは広がりを欠く。大半の研究成果が日本農業の発展に有効となるよう、併せて盤石な社会システムが求められる。

 新技術のうち、富山県の主産地でのニホンナシ病害多発を機に開発したのが「ナシ黒星病の被害軽減のための農作業機械を用いた落葉処理技術」。乗用草刈機やロータリーの一般的な農機での処理により、落葉からの子のう胞子飛散量が減少し、生育初期のナシ黒星病の発生を軽減できる。処理開始から3年目まで、年々減少効果が高まったという。

 実地検証から、これが優れた耕種的防除技術であることは分かる。ただ生産農家の要望は病害の発生を最小限に抑えることにある。そのため、例えば同技術と農薬使用の組み合わせも考えられよう。組み合わせた場合の農薬の最小で効果的な散布量や散布時期など、複合的な提案も期待したい。単独技術を理解し、普及できる専門人材は多くいる。複合的な取り組みには、技術を体系化できる核となる人材が地域に必要である。

 農研機構と、衛星データサービスを手がけるビジョンテック(茨城県つくば市)を中心とするコンソーシアムが開発したのが「予測を含む気象データを利用した水稲、小麦、大豆の栽培管理支援システム」。ウェブサイトを通じて、農業気象災害や病害の軽減に役立つ、早期警戒などの栽培管理支援情報が得られ、発育予測や施肥診断によって生産管理の効率化、スマート化が推進できる。

 しかし、このシステムは、情報通信技術(ICT)に精通する農業生産者でないと受け入れに戸惑うかもしれない。コンソメンバーは2021年3月末まで、気象情報とICTを活用した情報システムの実証・改良のための運用を行っている。高精度で使いやすく進化を遂げ、スマート農業の基盤技術の一つとして普及が待たれる。農水省が推薦する技術を普及する人材には、マーケティング戦略的な発想と、技術・方法をつないで各地域に合ったソリューションを提供する熱意を期待したい。

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