新型肺炎の収束が見通せないなか、10日から日本企業も現地事業を再開し始めた。業務停止期間中の従業員の勤務態勢や衛生用品の確保などを巡り、この間にも現場では多くの混乱がみられた。今後も再開作業のなかでトラブルに直面することがあるだろう。従業員の安全、事業継続計画(BCP)を確保するべく、拠点ごとのきめ細かいルール作りが求められている。
 9日までの操業停止期間内、まず問われたのは安全確保だ。「駐在員を中国に留めるのか」「一時退避させるのか」「家族や従業員はどうするか」等々。ただ企業や拠点ごとに事情は異なる。生産プロセス上、停止できない装置を持っていたり、デリバリーや財務面で最低限の人員を現地に残さざるを得ない企業は対応に苦慮した。湖北省以外の地域から日本に退避した駐在員にも2週間程度の自宅待機を義務づけ、出社を禁止する企業があった。リスク低減、安全確保を考え、社員の移動にどこまで制限をかければよいのか-。
 操業に不可欠なマスクや消毒液などの確保にも、多くの企業が頭を悩ませている。工場はもちろん多くの都市で、地下鉄やショッピングモールなど人が集まる場所でのマスク着用を求めており、日本からの輸送にも苦労がみられる。
 安全確保を最優先しつつもコスト負担は重要な検討事項だ。「休暇延長、在宅勤務が長期化するなか、従業員との間で勤務体系の変更にともなう賃金トラブルが生じた」との声もある。
 大手企業を中心に、現地代表の下で対策本部を設ける動きがある。情報収集に努め、原料調達や物流に支障を来す場合の迅速な代替手段の確保につなげる考えだ。現地と本社のコミュニケーションを密にするための仕組みは欠かせない。ネット上では真偽不明の情報も飛び交う。正しい情報にアクセスするため顧客など含む情報ネットワークの整備が重要だ。
 実際に工場を立ち上げていくなかでは、従業員の出勤時や作業現場における感染リスクの高まりも考慮せねばならない。労働災害が発生した際の病院の確保なども課題だ。原料調達、物流の確保とともに、操業再開過程でのリスクの洗い出し、対策の徹底も急がれる。
 感染症のリスクは中国だけではない。自然災害も含めグローバル規模でリスクを想定し、各拠点ごとに事前の備えを徹底するとともに、臨機応変に対応しなくてはならない。中国にいる駐在員の多くは「現地と本社で危機感に対する温度差が大きい」とこぼす。経営層には、数字だけではとらえ切れない現地の声に耳を傾けてほしい。

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