歴史的な僅差で大統領選を制し、5月10日に韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足した。5年ぶりの政権交代が、長期化する日韓対立に終止符を打つ契機となることを期待したい。10年以上も途絶えている首脳のシャトル外交を再開し、対話を続けるために両国政府は知恵を絞らなければならない。

 3月9日に実施された韓国大統領選挙は保守系野党「国民の力」の尹氏が与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿(キョンギ)道知事を、わずか0・7%の票差で上回る、稀に見る大接戦となった。

 韓国では不動産価格が高騰し、若い世代を中心に失業率が高止まりするなど貧富の格差が社会問題となってきた。文在寅(ムン・ジェイン)前政権は、任期末にもかかわらず40%前後の歴代最高水準の支持率を誇ったものの、他方で、社会の閉塞感を打ち破る変化を望む声が、検事総長だった尹氏を大統領に押し上げたとみられている。

 尹氏は選挙戦の最中、日韓関係を1998年の日韓パートナーシップ宣言のレベルへ回復させると主張しており、冷え切った日本との関係改善にも意欲をみせてきた。徴用工や慰安婦などの歴史問題や経済、安保の課題を含め、包括的な解消を図る姿勢は評価できるだろう。

 新政権には、冷え切った両国関係を正常な軌道に戻し、アジア地域を安定に導く指導力を発揮してもらいたい。尹氏は、米国との同盟のみならず日米韓3カ国の安保協力の重要性も強調しており、政策を巡る日韓の協調が進む可能性がある。

 もっとも、政権が代わればすぐに両国の関係改善につながると考えるのは早計であろう。新政権の与党議席は国会の約3分の1に過ぎず、議会の多数派を持たない、いわゆる「ねじれ」状態で始動するからだ。

 少なくとも2年後の総選挙まで、野党の協力がなくては予算成立もままならない状況が続く。従来の路線と大きく異なる政策を打つには相応の時間が必要だ。また尹氏は政治経験がなく、その力量も未知数といえるだろう。

 足下では、ロシアのウクライナ侵攻が中国を含む東アジア地域に与える影響・余波が懸念され、弾道ミサイルを相次ぎ発射する北朝鮮への対応を考えても、日韓の連携の重要性は、これまで以上に増しているといえるだろう。

 日韓の間に歴史を巡っての認識の乖離や差異があるのは事実だ。しかし両国政府には外交のパイプを再構築し、共通利益を目指して地域の安定に向けた対話を再開する柔軟さが求められる。

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