再生医療、遺伝子治療をはじめ新たな治療手段(モダリティ)に基づいた医薬品の開発・実用化が進むとともに、新型コロナウイルス感染症で脚光を浴びたメッセンジャーRNA(mRNA)のように従来なかった新たなタイプのワクチンも生まれている。だが、こうした新規モダリティによる医薬品やワクチンを医療現場にきちんと届けるためには、超低温のような特殊な環境下での輸送や保管が求められることなどがあり、それに応じた新しい資材が必要となる。従来とは異なる資材を切望する声が製薬企業から高まる今こそ、化学・素材メーカーの出番だ。

 再生医療で使う細胞、遺伝子治療で利用するウイルス製剤は、時にはマイナス150度Cといった超低温下での輸送・保管が必要なケースがある。液体窒素やドライアイスでは限界があり、簡便に利用できる蓄冷材へのニーズは強い。細胞などをいかに大量に安く、安定的に運べるかが、こうした新規モダリティ普及のカギを握るだけに、対応する蓄冷材の重要性はこれまで以上に増している。

 同時に、そうした環境下でも使える容器などの包装資材も欠かせない。その際に留意すべきが、いかに環境負荷の少ない材料で構成されているかだろう。環境配慮の意識が製薬業界にも浸透しつつある昨今、機能性に加え、持続可能性に優れた材料かどうかも採用時の評価指標の一つになってきている。目下、PTPシートのような一般的な医薬品包装材料でも、バイオマス由来プラスチックの利用は一部にとどまる。技術的な難しさだけでなく、医薬品独特の規格や品質基準が立ちふさがるものの、世界的な潮流を踏まえると決して避けては通れない。機能性と環境負荷の低さを兼ね備えた次世代包装資材の実用化は、喫緊の課題といえそうだ。

 新規モダリティをめぐる世界との競争で日本は後れをとった格好だが、蓄冷材や容器といった資材に関しては「材料に強い」といわれているだけに勝機はまだあるはず。しかし素材・化学メーカーは、新規モダリティで求められる規格や条件には必ずしも通じていない。一方で製薬企業の方も最先端の素材に関する知見は限られている。互いの技術と知恵を持ち寄り、率直な意見交換の場を立ち上げるべきだろう。

 世界を見渡しても、新規モダリティを見据えた材料や資材開発への取り組みは緒に就いたばかりで、図抜けた存在はいない。世界に通用するデファクトスタンダード(事実上の標準)の獲得に向けて、日本の化学と製薬が手を携えていくことを望みたい。

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