G20サミット(主要20カ国首脳会議)が閉幕した。菅首相は2050年までに温室効果ガス(GHG)排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」実現への決意を改めて国際社会に表明した。「温暖化対応は成長につながる」という発想の転換が必要であり、革新的イノベーションをカギに、経済と環境の好循環を創出していくとの考えを強調した。生産活動にともなう排出量の実質ゼロを宣言したものだが、本質的に温暖化問題の解決に臨むのであれば、消費ベースの排出量にも目を向けなければならない。

 製品のライフサイクル全体の排出量を、生産地ではなく製品の最終消費地を基準にみたものが消費ベースの排出量だ。この視点からとらえると、国産を輸入に切り替えても排出量は減らない。生産を海外に移し、自国の消費にともなう排出量を他国に負わせるようなごまかしは利かない。現状、欧米や日本など先進国では、消費ベースでの排出量が生産ベースを上回っている。日本の場合、消費ベースの排出量は生産ベースに比べて1~2割多い範囲で推移しているが、なかには、その差が広がっている国もある。

 欧州委員会は、50年までにEU域内でカーボンニュートラルの実現を目指す「欧州グリーンディール」を最優先政策とする計画を昨年末に発表している。今年9月には中国の習近平国家主席が国連総会の一般討論で、60年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言した。ここに日本が続いた。米国で大統領に就任する見通しとなったバイデン氏は、パリ協定の復帰を公約するなど地球温暖化対策の推進に前向きな姿勢を示しており、主要国の足並みが揃う。

 これを機に消費ベースの重要性を国際社会において強調してもらいたい。消費ベースの排出量を国民一人当たりでみると、日本の排出量は約10トンでG20のなかで5番目に多い。中国の2倍以上、インドとの比較では8倍以上にもなり、国民一人ひとりが自分の問題として考える契機ともなる。

 もっとも、生産ベースで見てきた排出量を消費ベースに変更するには、大きな問題があるようだ。資源エネルギー庁によれば、この方法で計算するためには精緻なデータが必要となり、統計に5年を要するという。このため直近の排出量の推移を追うには、やはり従来の生産ベースに頼らざるを得ない。ただGHG削減を計画する際には消費ベースの視点を忘れてはならない。生産ベースで成否を問うばかりでは、地球全体のGHG削減という温暖化対策の本質を見失うことになる。

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